Microsoft がようやく OS レベルで MIDI 2.0 / 低レイテンシ / マルチクライアント対応を実装した。
技術的には正しく、30年遅れでようやく “あるべき姿” にたどり着いたと言える。
しかし、このニュースが語るのは未来ではない。
むしろ MIDI という巨大な文化の終わり だ。MIDI が生まれた1983年。
日本のメーカーが中心となって世界標準を作り、
シンセサイザーの未来そのものを世界へ示した。
YAMAHA、Roland、KORG──
日本の技術者たちの熱と執念が、
“電子楽器をつなぐ共通語” を誕生させた。
MIDIは、たった1本のケーブルで楽器同士を会話させる魔法だった。
遅すぎた進化
USB 化で崩れたタイミング精度。
OS が放置したレイテンシ問題。
外部音源文化の衰退。
Windows MIDI Services が解決する課題のほとんどは、
本来なら Windows 95 時代に対処しておくべきものだった。
Apple が CoreMIDI を育て、iOS にまで継承したのとは対照的に、
Windows の MIDI は長く “趣味の周辺機能” のままだった。
今回のアップデートは、
改善というより、時代の後始末 だ。
あの時代を生きた人間だけが知る熱
- PCが欲しかった理由は “FM音源を触れるから”
- DOSのシーケンサでノートを数字入力していた
- 1音鳴るだけで鳥肌が立った
- カセットMIDIインターフェースに感動した
- シリアル接続の素直さが音楽の命だった
MIDIは、努力すれば音が返ってくる時代の象徴だった。
AIのように「最初から完成された音」を渡しては来ない。
その “不完全さ” が、創作の原動力だった。
USB化が壊したもの
MIDIの黄昏は USB化 で始まった。
- 遅延
- ジッター
- OS側処理の負債
- マルチクライアント不可
- 一貫しないタイミング
音楽にとっては致命傷だった。
Apple は CoreMIDI で救ったが、
MS は 30年間向き合わず、
ハード音源文化は静かに消えていった。
AI が奪った「楽器としてのPC」
現代の音楽制作は、もはや MIDI が主役ではない。
- AI 作曲
- AI 編曲
- AI 歌声
- AI 仮想演奏
- AI マスタリング
創作の重心が “リアルタイム信号処理” から “生成モデル” に移った今、
MIDI の出番は編集フォーマットとしての名残に限られる。
Windows が MIDI のレイテンシを完璧にしても、
世界はすでに 音を“書く”時代から、音を“生成する”時代 へ移動した。
それでも、MIDI は夢だった
FM音源のパラメータをいじり、
DOS のシーケンサにノート番号を打ち込み、
シリアル接続の安定したタイミングを信頼し──
MIDI は、努力したぶんだけ音が応えてくれた時代の象徴だった。
MIDI を通して世界中の電子楽器が会話を始めたあの日の熱を知る世代にとって、
今回のアップデートは懐かしさと寂しさの入り混じる出来事だ。
結語:看取りのためのアップデート
Windows MIDI Services は、素晴らしい技術だ。
だがこれは革命ではなく、
“看取りの儀式としての最後の更新” に近い。
MIDI は終わらないかもしれない。
しかし、主役であった時代は確かに幕を閉じた。
Windows の新しい MIDI が鳴らすのは、
未来の鐘ではなく、
静かで美しい鎮魂の鐘だ。

