日々の業務でもプライベートでも欠かせないWebブラウザ。しかし今、そのブラウザ自体が攻撃者にとって最も魅力的な「侵入口」となりつつあります。ゼロデイ脆弱性の悪用からクッキー盗難、悪意ある拡張機能まで──攻撃は巧妙さを増し、利用者を待ち受けています。では、どのような防御策が進んでいるのでしょうか。
ブラウザを狙う攻撃の最新動向
Webブラウザは、もはや単なる閲覧ツールではありません。業務アプリケーションの利用、クラウドサービスへのアクセス、さらには個人の銀行口座やショッピングサイトに至るまで、私たちのデジタル生活の「玄関口」として機能しています。その重要性ゆえに、攻撃者にとってもブラウザは格好のターゲットとなっているのです。
特に目立つのが、ゼロデイ脆弱性を悪用する攻撃です。ChromeのV8エンジンなどに潜む未知の欠陥を突くことで、ユーザーに気づかれないまま不正コードを実行させる手口は後を絶ちません。Googleが毎年複数件の「野生で利用中のゼロデイ」を報告している事実は、この脅威の深刻さを物語っています。
同時に増えているのが、セッショントークンやクッキーの窃取です。近年のWebサービスは「ログインしっぱなし」が前提ですが、その便利さが裏目に出ています。マルウェアや悪意ある拡張機能がブラウザ内部のクッキーを盗み出せば、パスワードを入力せずともアカウントを乗っ取ることが可能になります。
さらに巧妙なのが、OAuth認可を悪用したフィッシング型攻撃です。ユーザーに「アクセスを許可してください」と正規の画面を装って同意させ、知らぬ間に攻撃者に恒常的なアクセス権を与えてしまう──こうした手口はパスワードや二要素認証を回避できるため、非常に危険です。
そして見落とされがちなのが、拡張機能のリスクです。生産性を高める便利ツールの裏で、過剰な権限を持つ拡張がユーザーのデータを吸い上げるケースが確認されています。レビュー済みの拡張であっても、後から乗っ取られる可能性は否定できません。
このように、ブラウザ経由の攻撃は多層的かつ日常的に仕掛けられています。ユーザーが気づかないまま被害を受ける点が最大の脅威であり、「ブラウザ=最大の侵入口」と呼ばれる所以なのです。
Googleが打ち出す最新の防御策
最大シェアを誇る Chrome を抱える Google は、ブラウザをめぐる攻防戦の最前線に立っています。攻撃の進化に対応するため、同社は従来の「脆弱性を直す」だけにとどまらず、仕組みそのものを強化する方向へと舵を切り始めました。
その象徴が Device Bound Session Credentials(DBSC) です。これはセッションクッキーを端末そのものに紐付ける仕組みで、仮にクッキーが外部に盗まれたとしても、別のデバイスからは利用できないようにするものです。従来の「盗まれたら終わり」という弱点を克服する大きな一歩といえるでしょう。
また、Safe Browsing の高度化も進んでいます。従来はブラックリスト方式が中心でしたが、現在はリアルタイムに危険な URL を照合し、フィッシングやマルウェア配布サイトをより迅速にブロックできるようになりました。ユーザーがリンクをクリックする「その瞬間」を守るための改良です。
もちろん、ゼロデイ脆弱性への迅速対応も欠かせません。Google は実際に悪用されている脆弱性をいち早く公開し、数日単位で修正を配信する体制を整えています。利用者に「すぐに更新してください」と繰り返し通知する姿勢は、もはや常態化しています。
さらに、拡張機能の権限制御にも取り組んでいます。Manifest V3 への移行では、拡張が利用できる API を制限し、不必要なデータアクセスを難しくしました。利便性とのバランスに議論は残るものの、ブラウザそのものが攻撃に巻き込まれるリスクを減らす狙いがあります。
こうした一連の施策は、ユーザーが気づかないうちに被害を受ける「見えないリスク」への対抗策です。ブラウザのセキュリティは今、Google 主導で次の段階に進もうとしています。
組織・ユーザーが取るべき実践策
Googleが防御策を強化しても、最後の砦は利用者自身です。攻撃の多くは「気づかぬうちに」仕掛けられるため、日常的な備えが被害を大きく左右します。ここでは組織と個人の双方に共通する基本策を整理します。
第一に欠かせないのは、ブラウザを常に最新に保つことです。ゼロデイ攻撃の被害を防ぐ最も現実的な手段は、修正が公開された瞬間にアップデートを適用することに尽きます。企業であれば更新ポリシーを徹底し、ユーザー任せにしない体制が重要です。
次に、多要素認証(MFA)やパスキーの利用です。たとえクッキーやパスワードが流出しても、追加の認証要素があれば乗っ取りの成功率は大幅に下がります。Googleアカウントに限らず、業務システムやクラウドサービスでも可能な限り有効化すべきでしょう。
また、拡張機能の取捨選択も無視できません。便利だからと無制限に導入するのは危険で、利用は最小限に絞るのが鉄則です。企業環境では、承認済みの拡張のみをホワイトリスト方式で許可する運用が推奨されます。
さらに、フィッシング対策教育は今なお有効です。OAuth認可画面やCAPTCHA風の偽装ページなど、新しい手口に対応するには、ユーザー自身が「どこが怪しいのか」を見抜く目を持つことが求められます。
そして忘れてはならないのが、端末レベルでのセキュリティ強化です。EDRやアンチウイルスソフトによる常時監視、不審な拡張やプロセスの検知など、ブラウザ外からのサポートも防御を厚くします。
これらは特別な技術を必要とするものではなく、「更新」「認証」「選別」「教育」「監視」というシンプルな習慣です。だがその積み重ねこそが、日常的なブラウザ利用における最大の防御となります。
残された課題と今後の展望
数々の防御策が整備されつつあるとはいえ、ブラウザをめぐる攻防戦に「完全勝利」は存在しません。むしろ攻撃者の創意工夫は尽きることなく、守る側は常に一歩遅れて対応せざるを得ないのが現実です。
最大の課題は、やはりゼロデイ攻撃への対応の限界です。脆弱性が公表される前に悪用されてしまえば、いかに迅速にパッチを配布しても被害をゼロにはできません。利用者が「気づかないまま感染」する構造は今後も変わらないでしょう。
次に、レガシー環境の存在です。古いブラウザや更新されない拡張機能は、組織の中に温存されがちです。互換性や業務依存の理由から切り替えが遅れるケースは多く、その隙を攻撃者は確実に突いてきます。
さらに、利便性とのトレードオフも避けられません。拡張機能の制限やセッション管理の厳格化は、安全性を高める一方でユーザー体験を損なうことがあります。結果として利用者が「セキュリティを無効化してしまう」逆効果も起こりえます。
では未来はどうなるのでしょうか。ひとつの方向性は、AIによるリアルタイム検知と自動防御です。ブラウザに組み込まれたAIが不審な挙動を瞬時に判定し、ユーザーの操作を止める仕組みが実用化されれば、人間の判断に依存する部分は減っていくでしょう。また、標準機能としての「安全な既定値(secure defaults)」が普及すれば、意識しなくても強固な防御が働く環境が整っていくはずです。
結局のところ、ブラウザは「最大の侵入口」であると同時に、「最前線の防御拠点」でもあります。攻撃と防御のせめぎ合いは今後も続きますが、利用者自身の基本的な習慣と技術進化の両輪がそろえば、そのバランスを大きく崩されることはないでしょう。
まとめ
Webブラウザは、いまや私たちの生活と仕事を支える中心的なツールです。その便利さゆえに攻撃者の格好の標的となり、「最大の侵入口」と呼ばれる状況が生まれました。ゼロデイ脆弱性の悪用、クッキーやセッショントークンの盗難、悪意ある拡張機能や巧妙なフィッシング──これらはもはや日常的な脅威です。
Googleをはじめとするブラウザベンダーは、防御策を次々と打ち出しています。DBSCによるクッキー防御、Safe Browsingのリアルタイム化、ゼロデイ修正の迅速化、拡張機能の権限制御。確かに防御の網は細かくなりつつありますが、最終的に被害を避けられるかどうかは、利用者自身の姿勢にかかっています。
アップデートを怠らない、多要素認証を導入する、拡張機能を厳選する──地味に見える習慣の積み重ねこそ、最も確実な防御です。そして、セキュリティと利便性のバランスを取りつつ、今後登場するAIや自動化技術の力も取り入れていくことが求められます。
攻撃と防御のイタチごっこは続きます。しかし「ブラウザ=最大のリスク」を意識し、小さな実践を積み上げることで、侵入口を“最前線の防御拠点”へと変えていくことができるのです。
関連リンク
最適な防御策をタイムリーに構築できるよう、Googleが公開する最新情報は常にチェックするように心がけましょう。
| タイトル | 内容概要 |
|---|---|
| Device Bound Session Credentials (DBSC) | 認証セッションを特定の端末に紐づけて、クッキー盗難・セッションハイジャックを防ぐ仕組み。開発者向けドキュメント。 https://developer.chrome.com/docs/web-platform/device-bound-session-credentials |
| Fighting cookie theft using device bound sessions | Chromium ブログで、DBSC のプロトタイプ実装を紹介。「クッキー盗難産業」を妨害する意図を説明。 https://blog.chromium.org/2024/04/fighting-cookie-theft-using-device.html |
| Origin trial: Device Bound Session Credentials in Chrome | DBSC が Chrome 135 でオリジントライアルとして利用可能になった発表。実際のテスト導入状況を解説。 https://developer.chrome.com/blog/dbsc-origin-trial |
| Improving the security of Chrome cookies on Windows | Windows 上でクッキーなどの認証情報を保護するための暗号化方式(App-Bound Encryption)導入の説明。脅威モデルに対する防御強化の具体例。 https://security.googleblog.com/2024/07/improving-security-of-chrome-cookies-on.html |
| Defending against account takeovers … passkeys and DBSC | Google Workspace アカウント乗っ取りへの対策として、パスキーと DBSC の両方を導入すべきと呼びかけ。組織管理者に向けた内容。 https://workspace.google.com/blog/identity-and-security/defending-against-account-takeovers-top-threats-passkeys-and-dbsc |
| Active Exploitation of Zero-Day Vulnerability in Google Chrome (CVE-2025-10585) | 実際に悪用されているゼロデイ脆弱性の警告。Chrome の更新を急ぐべき旨を Google が発信。 https://www.bleepingcomputer.com/news/security/google-patches-sixth-chrome-zero-day-exploited-in-attacks-this-year |

