国産ナビアプリ[moviLink]が全方位で登場 ─ トヨタの未来戦略の布石

国産ナビアプリが全方位で登場 ─ トヨタの未来戦略の布石 TECH

トヨタコネクテッドが出してきたナビアプリ「moviLink」、ぱっと見は「純正ナビがスマホに来た」くらいの話に見える。でも、よく見るとこれ、地味に時代の節目っぽい匂いがする。

進化するカーナビアプリ moviLink(モビリンク)
moviLink(モビリンク)はあなたの声で日々アップデートするトヨタの無料カーナビアプリです。Android Auto/Apple CarPlayに対応しています。

まず目を引くのは、iPhone版とAndroid版を最初から両方そろえてきたこと。
どちらかに寄せず、どちらも取る。これは「とりあえず実験」じゃなくて、「これは基盤にする気だな」という作り方だ。スマホのOSが何であれ、車に乗る体験は同じ顔で提供したい、という意思が透けて見える。

そしてもう一つ、ちょっと懐かしい名前が顔を出す。VICS
一時期は「もう過去のインフラでしょ」と思われがちだった交通情報網だけど、ちゃんと現役で使われている。これは面白いポイントで、「最新のクラウド地図一辺倒」ではなく、日本の道路インフラと一緒に育ってきた資産も、まだ戦力として使うという姿勢が見える。

これって、単なるノスタルジーじゃない。
日本の道路事情、渋滞情報、事故情報、工事情報――こういう“泥臭い現実”は、意外とグローバルな地図サービスだけではカバーしきれない部分も多い。そこを、長年積み上げてきた国内インフラと組み合わせていく、というのは、かなりトヨタらしい堅実さだと思う。

もう一歩引いて見ると、この動きは自動運転時代への布石にも見える。
自動運転が本格化すると、ナビは「道案内」じゃなくて、「移動体験の司令塔」になる。どこへ行くか、いつ着くか、渋滞をどう避けるか、充電や休憩をどう挟むか。そういう判断の“表層”を誰が握るかは、実はかなり大きな主導権の話だ。

もしそこを全部、GoogleやAppleのプラットフォームに渡してしまったら、クルマは「ただの表示装置」になりかねない。
だからトヨタは、自前のナビ体験をスマホの世界に先に置いておく。しかもiOSとAndroidの両方に。これは「ライセンス料が嫌だから」というレベルの話ではなく、将来の運転席の主導権を、今のうちに自社側に残しておくための一手に見える。

moviLinkは、見た目はおとなしいナビアプリだ。
でも中身は、「国産の道路インフラ」「両OS対応の表層UI」「車載ナビとの連携」という、なかなか欲張りな構成になっている。派手なAIデモもなければ、未来感あふれる演出もない。けれど、こういう“地味で重たい石”が、あとから効いてくることは多い。

数年後、「ああ、ここが分岐点だったね」と言われるのは、たぶんこういう静かなアップデートのほうだ。
ナビアプリの皮をかぶった、トヨタの未来戦略の布石。そう考えると、この一手、なかなか味わい深い。