連載:技術覇権戦争の現在地
米国商務省が、AI半導体の対中輸出に関する新たな規制強化案を検討している。対象はNVIDIAのH100・H200、AMDのMI300シリーズなど、高性能GPUを中心に広がる可能性がある。規制は単なる禁輸ではなく、“演算封鎖(Compute Blockade)”と呼ぶにふさわしい新フェーズに入った。
序章:AI半導体を巡る再規制の波
米国の対中規制は段階的に進化してきた。初期は軍事転用防止を名目とした輸出管理だったが、現在は「生成AIモデル訓練の封じ込め」を主目的に据える。つまり、AI開発そのものを制約する政策転換である。
第1章 背景:GPUは“新たな原油”
- 計算力=国家戦略資源:AI開発力は演算資源の量で決まる。
- 米国の主張:「AIモデルの軍事転用リスクを防ぐため」と説明するが、実態はAI覇権維持の防御線。
- 供給網の再編:台湾・韓国・日本・欧州に製造を分散し、対中アクセスを物理的に遮断。
第2章 NVIDIA・AMD・Intelの苦悩
主要ベンダーは「規制遵守」と「市場維持」の狭間で揺れている。NVIDIAは既に中国向けに性能制限版「H20」チップを投入しているが、新たな規制では“演算密度”単位で制御される可能性が指摘されている。つまり、単なるクロック制限ではなく、AIモデルの学習規模そのものを規制対象にするということだ。
第3章 再分断するAIサプライチェーン
規制の焦点はGPUだけではない。EDAソフトウェア、FPGA設計ツール、光学素材、そしてデータセンター電力管理まで、AI構築の全レイヤーが影響を受ける。各国は次のような動きを見せている:
- 欧州:ASMLが米国規制に部分協調、EUV関連装置の中国輸出を制限
- 日本:経産省が「特定半導体製造装置等輸出管理令」を再改定
- 中国:国産GPU開発を国家戦略に格上げ(例:Biren、Moore Threads)
第4章 日本の立ち位置と課題
- 製造装置と材料の優位:依然として日本企業の技術は不可欠。
- しかし:同盟国圧力により、対中供給の自由度が年々低下。
- 結果:企業は「技術を売る」から「技術を守る」モードへ移行中。
結章 分断の先にある“二極AI世界”
AIを動かす計算資源の支配権をめぐる攻防は、もはやサプライチェーンの問題ではなく、文明の分水嶺になりつつある。米中両陣営はそれぞれ独立した演算圏を形成し、互換性を失いつつある。
AIの未来はオープンソースでなく、政治地図の上に描かれている。
次回予告:「中国、“国産GPU時代”の現実 ─ SMIC・Biren・MooreThreadsの台頭と限界」
連載ハブ:技術覇権戦争の現在地
参照リンク
- European Commission:European Chips Act(公式説明)
- European Commission:Chips Act 政策概要
- EUR-Lex:EU Chips Act(正式規則本文)
- European Commission:半導体サプライチェーン監視・危機対応機構
- Reuters:オランダ政府、ASML機器の中国向けサービスにライセンス義務を導入
- Reuters:ASML、在庫蓄積と希土類規制影響を過小評価
- Reuters:米国の輸出規制強化が中長期需要に与える影響をASMLが慎重評価
- Reuters:ASML CEO、米国の対中輸出制限背景を「経済動機」と述べる
- Reuters:オランダ政府、ASML装置の対中輸出の統制を米国から引き戻し
- Reuters:ASML、輸出規制懸念が顧客支出に影響していると報告

