2025年はスマートグラス元年──ARグラスから日常ガジェットへ進化する転換点

スマートグラス元年 TECH

2025年は「スマートグラス元年」と呼ぶにふさわしい節目の年になりそうです。
実は筆者も10年ほど前、マイクロソフトの大型ARヘッドセットHoloLensを試したことがありました。視界に3Dオブジェクトが浮かぶ未来感はあったものの、操作は視線ジェスチャー中心で、目の周りの筋肉が疲れるばかり。正直、実用には遠いと感じた苦い記憶が残っています。

それから時を経て登場したのが、Ray-Ban Meta を代表とするスマートグラス。サングラスの延長のような自然な外観に、AIアシスタントやハンズフリー撮影などの機能を搭載し、街中で普通にかけて歩ける水準に到達しました。もはや「未来を体験するための実験機」ではなく、「日常に取り入れられるガジェット」へと進化しているのです。

スマートグラスとARグラスの違い

かつて「未来のメガネ」といえば、ARグラスやヘッドマウントディスプレイのイメージが強くありました。視界に3Dオブジェクトを重ね合わせ、空間をマッピングして手や視線で操作する──そんな世界観を描いたのが HoloLens や Magic Leap です。ところが実際には装着感が重く、利用シーンも産業や研究用途に偏り、一般ユーザーには普及しませんでした。

一方、2025年に注目を集めるスマートグラスは、発想そのものが異なります。見た目はサングラスやメガネとほとんど変わらず、普段の生活に違和感なく溶け込むデザイン。その上で、音声アシスタントやハンズフリーのカメラ機能、通知や翻訳といった日常的な機能を担います。

つまり、

  • ARグラス:現実に情報を重ねる「作業端末」寄り
  • スマートグラス:日常に持ち込める「ウェアラブルAIガジェット」

このように棲み分けがはっきり見えてきました。

市場成立の背景

スマートグラスが「元年」と呼べる段階にまで来たのは、いくつかの要因が重なった結果です。

まず数字の面では、2025年前半の世界出荷台数が前年同期比で倍増しました。そのうちの約8割を「AIスマートグラス」が占め、さらにメーカー別ではMetaが7割超のシェアを押さえています。数年前までは試作品やニッチ製品にとどまっていたものが、いよいよ本格的に“市場”を形成し始めたといえるでしょう。

次に製品の魅力。特に Ray-Ban Meta の登場は大きな転換点になりました。サングラスとして自然にかけられるデザインに、音声AIやカメラ機能を違和感なく融合させたことで、従来の「未来的すぎるガジェット」から「街で使えるファッションアイテム」へと位置づけを変えました。これがユーザー層の広がりを後押ししています。

日本市場に目を向けると、Ray-Ban Meta の正規販売はまだですが、その代わりに XREAL Air 2Rokid Max 2 といった「映像ビューア型」のスマートグラスが人気を集めています。スマホやPCに接続して“モバイル大画面”を楽しむユースケースは、価格改定や販売キャンペーンもあって着実に定着しつつあります。

こうした動きが重なり、「スマートグラスはもはや一過性の話題ではなく、市場が確立しつつある」と言える段階に到達したのです。

最新の動向

2025年の今、スマートグラス市場は次のステージへ踏み出そうとしています。

最大の注目は、Metaの新モデル発表です。Ray-Banシリーズに続き、コードネーム Hypernova / Celeste と呼ばれる「表示付きモデル」が登場予定で、レンズ内に簡易的な情報を映し出す仕組みが採用される見込みです。価格は約800ドルとされ、操作用のリストバンド型デバイスも同時に開発されているとの報道があります。これが実現すれば、従来の“AI+カメラ”中心のスマートグラスに「視覚的なインターフェース」が加わり、使い勝手が大きく変わる可能性があります。

同時に、競合の動きも活発化しています。Amazonは独自のコンシューマー向けARグラスを開発中とされ、2026〜27年の投入が見込まれています。さらにGoogleは Android XR という新しい基盤を整備しており、開発者がスマートグラス向けアプリを作りやすくする環境を準備しています。これらのプラットフォームが整えば、スマートグラスは単なるハードウェアから「エコシステムを持つ市場」へと成長していくでしょう。

一方、日本市場では依然として XREAL Air 2Rokid Max 2 といった“モバイル大画面ビューア”型が主力です。価格改定や販売強化により、スマホやゲーム機と組み合わせて「ポータブル映画館」として使う層が広がっており、普及の足がかりを築いています。

こうした新旧の動きが交錯することで、2025年は「実用品としてのスマートグラス」と「次世代の表示型スマートグラス」が並行して進化する年になっているのです。

玉石混交の実態

ここで注意しておきたいのは、スマートグラス市場が急成長する一方で、製品の質には大きなばらつきがあるという点です。

たとえば通販サイトには「AI翻訳スマートグラス」と銘打たれた格安品も出回っています。実態はBluetoothイヤホンと同じ仕組みに、クラウド翻訳アプリを組み合わせただけのものが多く、MetaやXREALのようにハードウェアとソフトウェアを深く統合した“本流”とは一線を画します。
もっとも、この価格でBluetoothカメラ付きの眼鏡というだけで大いに価値はありそうですが。

格安”AI翻訳スマートグラス”の例

格安”AI翻訳スマートグラス”の例(通販サイトより)
6K ULTRA HDと謳うが、実態はBluetoothカメラ+スマホ連携。AIラベルも数字も“盛りすぎ”の典型例

つまり現在の市場は、先端メーカーが牽引する本格派と、AIの看板を掲げただけの便乗製品が混在する状態です。だからこそ、2025年を「スマートグラス元年」と呼ぶときには、両者をきちんと見分ける視点も欠かせません。

今後の展望

スマートグラス市場は、ここから数年でさらに加速する可能性を秘めています。

短期(1〜2年)

Metaの表示付きモデルが登場すれば、「通知を目の前で読む」「簡単な操作を視界に重ねる」といった体験が広がります。価格は高めでも、先行層が飛びつくことで認知が一気に高まり、各社が追随するでしょう。

中期(3〜5年)

プラットフォームが整備され、アプリやサービスが拡大していきます。GoogleのAndroid XRやAmazonの参入は、まさにその布石です。開発者が参加しやすくなることで、現在はバラバラなユースケース(動画視聴、AIアシスタント、翻訳など)が統合されたエコシステムへと育っていく見込みです。

課題

ただし、解決すべきハードルも残ります。

  • バッテリー寿命:長時間使えなければ日常利用は難しい。
  • プライバシーとマナー:カメラ常時オンの懸念は根強い。
  • ファッション性:いかに「普通のメガネ」と見分けがつかないかが普及のカギ。

まとめ

10年前、未来を先取りするように登場したARグラスは、重たく扱いにくい“実験機”に過ぎませんでした。視線ジェスチャーに四苦八苦した記憶がある人も少なくないでしょう。

それが今、2025年にはRay-Ban Metaをはじめとするスマートグラスが、サングラスの延長のような自然さで街中に登場しています。AIアシスタントや映像表示といった機能が、ようやく日常に溶け込む段階に入ったのです。

この流れを踏まえれば、2025年は「スマートグラス元年」と呼ぶにふさわしい節目。これから数年で、私たちの生活に“顔の前の新しいスクリーン”が本格的に広がっていく可能性は高いといえるでしょう。

参考資料