技術文書やブログ記事を書いていると、
「ここに図が一枚あれば話が早いのに」と思う場面が必ず出てくる。
それは凝った図でも、美しい図でもない。
既成概念を思い出させるための、ごく普通の図だ。
かつては Visio が、その役割を完璧に担っていた。
だが環境が変わり、前提も変わった。
そして今、AIという新しい“肩代わり役”が現れている。
本記事では、
Next AI Drawio を実際に使いながら、
AI作図が何を解決し、何を解決しないのかを整理する。
結論を急がず、
「下書きとしての価値」にだけ、正直に向き合ってみたい。
Visioという救済装置
技術屋は、昔から図が苦手だったわけではない。
正確に言えば、図を描く必要性は誰よりも理解していたが、それを得意とはしていなかった。
ネットワーク構成図、業務フロー、システム構成。
言葉やコードでは説明できない関係性を、一枚の図に落とす必要は常にあった。
その問題に対する20世紀の回答が、Visioだった。
Visioは、
「絵が上手くなくても、正しい図が描ける」
という一点において、圧倒的な価値を持っていた。
- 四角と線を置くだけで、それらしい図になる
- コネクタは勝手に中央に吸い付く
- 揃えようと意識しなくても、整って見える
作図のセンスを、ツール側が肩代わりしてくれた。
だからこそ、Visioは長く生き残った。
問題が再び現れたのは、「環境」が変わったからだ
では、なぜ今また「図が描けない」という話になるのか。
理由は単純だ。
- Office を前提としない環境が増えた
- Windows 以外のOSが普通に使われるようになった
- 個人がブログや技術記事を書く時代になった
Visioは今も健在だが、
誰もが常に使える道具ではなくなった。
文章を書く場所は増えたのに、
図を描くための「ちょうどいい道具」が、環境からこぼれ落ちた。
ここで初めて、
図は必要だが、
そのために別の頭を使いたくない
という感覚が、再び表に出てきた。
そして今、もう一度「肩代わり」が始まっている
今回触ったツールは、
この文脈の上にきれいに乗っている。
Visioがやっていたのは
配置と整列の肩代わりだった。
今、AIがやり始めているのは
構造そのものの下書きだ。
ここが、20世紀との決定的な違いになる。
Next AI Drawio は「draw.io に AI を載せたもの」だ
next-ai-draw-io は LLM に゙作図の下書きを自然言語で依頼することができる。
draw.ioの表現力そのままに。
UI を見た瞬間に分かる通り、
ベースになっているのは draw.io(現 diagrams.net)そのものだ。
- 四角と線を基本にしたブロック図
- コネクタは自動で吸い付く
- 揃えようと意識しなくても整列する
- 出力フォーマットは PNG / SVG / PDF / XML まで一通り揃う

ここまでは、元祖 draw.io と何も変わらない。
つまりこのツールの正体は、
draw.io の作図エンジンに、AIによる“初稿生成”を組み合わせたもの

AIがやっているのは「作図」ではなく「下書き」
重要なのは、
このAIが図を完成させているわけではない、という点だ。
実際に行われているのは、
- テキストで与えられた意図を読み取り
- 図として破綻しない最小構成を考え
- draw.io が理解できる内部表現(XML)に変換する
という工程だけ。
配置の美しさや、
線が中央に吸い付く気持ちよさは、
AIではなく、draw.io 側の知恵だ。
AIはあくまで、
「何を、どの順で、どこに置くか」の
たたき台を出しているだけ
この割り切りが、逆にいい。
だから「つまらないが、悪くない図」になる
生成された図は、正直に言って派手ではない。
驚きも、芸術性もない。
だが、
- 意味は崩れていない
- 読めばすぐ理解できる
- 説明記事にそのまま置ける
という条件は、きちんと満たしている。
これは偶然ではない。
AIは「分かりやすさ」を優先すると、
必ず教科書的な構図に収束する。
左右分割、縦積み、中央合流。
退屈だが、安全。
そしてその安全な下書きを、
人間が必要なだけ手直しする。
この関係性は、
文章を書くときの「AI下書き → 人間が清書」とまったく同じだ。
思考の過程は、ちゃんと見えている
このツールが面白いのは、AIが「絵」を描いているように見えて、実際はそうではない点だ。
やっていることは、もっと機械的で、だからこそ信用できる。
プロンプトで渡した日本語の指示は、いきなり図になるのではなく、いったん図の内部表現に翻訳される。
今回生成されたのは、<mxCell> が並ぶ mxGraph 系のXMLだった。
XMLデータの抜粋
<mxCell id="17" value="" style="endArrow=classic;html=1;exitX=0.5;exitY=1;exitDx=0;exitDy=0;entryX=0.5;entryY=0;entryDx=0;entryDy=0;strokeWidth=2;strokeColor=#d79b00;endFill=1;startArrow=none;startFill=0;endSize=8" edge="1" parent="1" source="9" target="10">
<mxCell id="20" value="AIが処理した内容を人間が判断・修正" style="text;html=1;align=center;verticalAlign=middle;resizable=0;points=[];autosize=1;fontSize=12;fontStyle=0" vertex="1" parent="1">
<mxGeometry x="280" y="510" width="200" height="30" as="geometry"/>
</mxCell>
mxCellは箱や線などの「部品」mxGeometryはその部品の座標とサイズedge="1"のセルはコネクタ(矢印)sourceとtargetで「どの箱からどの箱へ」も明示される
つまり、これは「画像生成」ではなく、
文章 → 図の設計図(XML) → 画面に描画
という変換だ。
コネクタがちゃんとスナップする快感
今回気づいたのが、コネクタの挙動だ。
PowerPointのコネクタが中央に吸い付く、あの感覚に近い。
これもAIのセンスではなく、XMLに「どこから出て、どこに入るか」が書かれているから起きる。
AIにSVGを描かせたことがある御仁なら経験があるはずだ。コネクタの位置が怪しい..(笑)
実際はちょっと怪しさが残るが、コネクタが宙に浮くような事故がなくなる。
たとえば、
exitX=0.5; exitY=1(箱の下中央から出る)entryX=0.5; entryY=0(相手の上中央に入る)
この指定があるだけで、線はそれっぽく整う。
さらに、左右の箱が揃って見えるのも同じだ。
「右寄せ/左寄せの発想」が生まれたというより、単に同じ x 座標が繰り返し使われている。
結果として、人間が描いた図のように整列して見える。
「つまらないが、悪くない図」になる理由もここにある
この手の変換は、どうしても教科書的な構図に収束する。
- 左右分割
- 縦積み
- 中央に合流
今回も「重なり」は作られず、最後に“合流”で処理された。
中央の箱(協働)に、左右の流れが矢印で集まる形だ。
これは失敗というより、生成ロジックの性格が出た結果だ。
「曖昧な重なり」を発見して描くのは難しいが、
「合流」でまとめるのは簡単で破綻しにくい。
ここが文章生成と同じになる
つまり、このツールのAIがやっているのは、
- 正解図を描くことではなく
- 破綻しない“初稿”を出すこと
という点で、文章の下書き生成と同じだ。
AIが作った設計図(XML)を、
ツールが気持ちよく描画し、
人間が必要な部分だけを直して清書する。
この分業が見えるから、納得して使える。
実際に”言葉で作図”してみよう
記事を書いていると、
既成概念を図で示したくなる場面が頻繁に出てくる。
新しい理論や独自の主張ではない。
すでに世の中で共有されている枠組みを、
読者の頭の中に素早く呼び戻すための図だ。
典型的なのが、OSI 7階層参照モデルだろう。
内容は単純だ。
説明も難しくない。
だが、いざ図として用意しようとすると、
一から描くのは正直、億劫だ。
1行の自然語で、作図を指示する
そこで、Next AI Drawio を使ってみる。
作図指示に使ったプロンプトは、これだけだ。
OSI の 7 layer をカラフルな図解で。キャプション付き。
たった一行。
細かい配置指定も、レイアウト指示もしていない。
それでも、
それらしい図が返ってくる。

出てきた図は、荒削りだが使える
生成された図を見て、
「完璧だ」と思う人はいないだろう。
- 色のコントラストはやや弱い
- ブロック間の余白が少し間延びしている
- 視認性を詰めたくなる部分もある
正直、荒削りだ。
だが、それでいい。
- 階層構造は崩れていない
- 情報の過不足もない
- キャプションも無難で、説明として破綻していない
下書きとしては十分だ。
価値は「完成度」ではなく「手数の削減」にある
この作例が示している価値は、
作図の美しさではない。
- 図の骨格が一瞬で出る
- 考えを中断せずに済む
- 「ゼロから描く」という工程が消える
これに尽きる。
最初から完成品を求めると、評価は厳しくなる。
だが、清書は人間がやる前提で見ると、評価は一変する。
既成概念の図示に、これ以上はいらない
OSI 7階層のような既成概念は、
「図があること」自体に意味がある。
細部の美しさよりも、
読者が一瞬で文脈を思い出せるかが重要だ。
その役割において、
Next AI Drawio は十分に仕事をしている。
文章を書きながら、
必要になった図を、言葉で投げる。
返ってきた下書きを、少し整える。
この距離感こそが、
このツールのいちばん正しい使い方だと思う。
抽象概念を図にしてみる
既成概念の次に試したのは、
Active Directory の抽象概念図だ。
ADは厄介だ。
実体が見えない。
- ユーザー
- PC
- サーバ
- ファイル
- アプリケーション
それぞれは存在するが、
それらを束ねている「仕組み」は、
言葉で説明するしかない場面が多い。
だからこそ、
ざっくりした関係性を一枚の図に落とす
という需要がある。
Next AI Drawio に対して行ったのは、
認証・権限・ポリシーという関係性を
自然語で指示するだけだった。
出来上がった図は、正直に言えば粗い。
アイコンの選択も、レイアウトも、洗練されてはいない。
だが、
- ADが「中心」にいること
- 認証と権限が分かれていること
- 各リソースがどう結び付くか
説明用の下書きとしては成立している。
作図指示に使ったプロンプトは、これだ。
Active Directory を抽象概念図として描いてください。
中央に Active Directory。
周囲に ユーザー、PC、サーバ、アプリケーション、ファイルサーバ。
それぞれが認証・権限・ポリシーで中央と接続されていることが分かる構成で。
シンプルで説明記事向けの図にしてください。

相変わらず、荒削りだ。
ここから先、
見た目を整えるかどうかは人間の仕事だ。
大量に用意されたアイコンで装飾すれば、
いくらでも“それらしく”できる。
AIは意味の骨組みを出す。
仕上げるかどうかは、人間が決めればいい。
──そんな使い方で十分だろう。
このツールを語るなら、Visioを避けて通ることはできない
AIで図が描ける、という話をすると、
どうしても「新しい/革新的」という方向に話が流れがちだ。
だが、この文脈ではそれは正しくない。
なぜなら、業務用の作図という分野には、すでにVisioという完成度の高い解が存在していたからだ。
Visioは長い間、
- 技術者が
- 絵の巧拙を問われず
- 正確で、読みやすい図を描くための
事実上の標準ツールだった。
Office環境に組み込まれ、
PowerPointやWordと同じ感覚で使える。
組織内で図を共有する前提が、最初から設計されている。
Office 365 環境が揃っているなら、draw.io を使う必要はない。
これは率直に認めていい。
問題は、Visioが使えなくなった瞬間に現れる
Visioが弱くなったわけではない。
環境が変わっただけだ。
- Windows 11 へ移行しない選択
- macOS や Linux への移行
- MS Office からの距離
このどれかを選んだ瞬間、
Visioは「使えないツール」になる。
すると、急に現実が露わになる。
- 図は必要だ
- だが、PowerPoint はない
- LibreOffice Draw はあるが、精度や操作感に癖がある
- ブラウザで完結したいケースも多い
ここで初めて、
Office 非依存で、
それなりの精度の図を描けるツール
という条件が、強く意味を持ち始める。
draw.io が生き残ってきた理由
draw.io(diagrams.net)が長く使われてきた理由は、
決して「軽いから」でも「無料だから」でもない。
- OSを選ばない
- Officeを前提としない
- それでも、Visio的な作図体験ができる
この一点に尽きる。
コネクタの挙動、整列の気持ちよさ、
「考えなくてもそれっぽくなる」作図体験。
それは、
Visioが築いた文法を、WebとOSSの世界に持ち込んだものだった。
今回のAI作図は、その延長線上にある
今回触ったツールは、
Visioの代替でもなければ、破壊者でもない。
draw.io が担ってきた役割──
作図の作法をツール側が肩代わりする──
その上に、
構造の下書きをAIが出す
という一段を足しただけだ。
だから使い心地が破綻しないし、
「分かっている人には、すぐ理解できる」。
これは革命ではない。
正統進化だ。
Officeを離れた後に残る、現実的な選択肢
Office 365 から離れた瞬間、
図を描く環境は一気に心細くなる。
文章は書ける。
Markdownでも、CMSでも、エディタでも困らない。
だが、図だけが取り残される。
LibreOffice には Draw があるし、
図形は一通り揃っている。
だが、正直に言えば――
- 操作感に独特の癖がある
- 整列やコネクタの挙動が洗練されていない
- 「考えずにそれっぽくなる」感じが弱い
Visio を知っている人ほど、
この差ははっきり感じる。
draw.io が「ちょうどいい位置」にある理由
draw.io(diagrams.net)は、
この隙間にぴたりと収まっている。
- Office に依存しない
- OS に依存しない
- それでいて、作図の作法は Visio に近い
四角と線を置くだけで破綻しない。
揃えようと意識しなくても、勝手に整う。
文章を書く流れを止めずに、図が描ける。
この一点だけで、
ブログや技術記事を書く人間にとっては十分な価値がある。
Nextcloud版 draw.io は「正解」だが、今回の主役ではない
Nextcloud に draw.io がアプリとして用意されているのは、
よく知られている話だ。
- グループでの共同編集
- ファイル管理と権限管理
- チームで図を育てていく用途
こうしたケースでは、
Nextcloud + draw.io はかなり強い。
ただし、今回語っている文脈はそこではない。
ここで扱っているのは、
- 個人
- 記事執筆
- 思考の補助としての FIG
つまり、
「共有」よりも「下書き」が重要な場面だ。
AI作図が効くのは、この「個人用途」の文脈
ここでようやく、AIの価値がはっきりする。
- 図を描くために頭を切り替えなくていい
- 文章で考えた内容を、そのまま投げられる
- 図の初稿が一瞬で出る
出来上がる図は、決して完璧ではない。
だが、ゼロから描く必要がなくなる。
この差は大きい。
結論:図を描く時代ではなく、「下書きが出る時代」になった
AIが図を描く時代になった、という話ではない。
少なくとも、このツールはそういう類のものではない。
やっていることは、極めて地味だ。
- 文章で考えた内容を受け取り
- 破綻しない構造に落とし
- 図としての“下書き”を出す
それだけ。
整列やコネクタの気持ちよさは、
昔から draw.io が持っていた作法だ。
AIは、そこに構造の初稿を足したにすぎない。
だが、その一段が効いている。
図を描くために、
別のツールを立ち上げ、
別の頭を使い、
一から配置を考える――
その工程が丸ごと消える。
文章を書いている流れのまま、
「ここに図が要るな」と思った瞬間に、
とりあえず置けるものが出てくる。
あとは、人間の仕事だ。
- どこを強調するか
- 何を削るか
- その図に責任を持てるか
清書と判断は、結局人間がやる。
AIは代筆者であり、
代筆以上にはならない。
だが、下書きとしては十分すぎる。
Visioが20世紀にやっていた
「作図センスの肩代わり」を、
いまはAIが構造の段階でやり始めている。
それだけの話だ。
そして、それだけで――
文章を書く人間にとっては、
もう十分に価値がある。
本記事について
本記事で紹介している作図例は、
Next AI Drawio が公開している「Live Demo(お試し環境)」を使用して作成したものです。

生成結果や試行回数にはデモ環境特有の制約がありますが、
自然語から図の下書きを起こす体験や、
AIによる作図アプローチの方向性を掴むには十分な内容だと感じました。
本格的な利用や継続的な試行については、
各自の環境や用途に応じた検討が前提となります。


