オランダ、Nexperia統制へ ─ チャイナ不信が導いた「物資可用性法」発動

オランダ、Nexperia統制へ ─ チャイナ不信が導いた「物資可用性法」発動 TECH

欧州の“静かな防衛線”が動いた

2025年10月、オランダ経済省は半導体企業 Nexperia に対し、
国家法「Goods Availability Act(物資可用性法)」を発動した。

この法は本来、災害や戦時など国家危機下で生活物資の供給を確保するために制定されたもので、
平時において企業ガバナンスへ適用されるのは異例中の異例だ。

政府は声明で、Nexperiaにおける「ガバナンス上の深刻な欠陥」および
重要技術の流出リスク」を理由に挙げ、
経営判断の一部を政府が承認制とする暫定措置を発表。
Nexperiaの通常の製造・輸出活動は維持されるが、経営上の重要決定には国家の関与が生じる。

名目上は“リスク管理”だが、背後に流れるのは明確な地政学的懸念──
「チャイナ不信」である。


物資可用性法とは何か

「Goods Availability Act」は、1952年に制定されたオランダの非常法体系の一部である。
国家が危機下で重要物資を確保するため、政府が企業の生産・供給・流通に直接介入できる権限を持つ。

対象はエネルギー、通信、医薬品、そして“技術的資産”。
つまり、現代の文脈では 半導体も「物資」扱い となる。

本来は戦争・感染症・大規模災害の発生時に発動される法律だが、
政府は今回、これを「経済安全保障上の緊急事態」に準えて適用した。

この判断が「どこまで妥当か」は議論の余地がある。
だが、EUの供給網強靭化政策、アメリカのCHIPS法、
そして日本の経済安全保障推進法に通じる流れの一環であることは間違いない。


Nexperiaという“チャイナ・リンク”

Nexperiaは、オランダ・ネイメーヘンに本社を置く半導体メーカーだ。
かつてはPhilips傘下の半導体部門として知られ、欧州産業の象徴的存在だった。
だが、2019年に中国の Wingtech Technology が筆頭株主となり、
実質的な中国系企業として経営が進んでいた。

Wingtechはスマートフォンや通信機器向けSoCを手掛ける中国企業であり、
政府系資本との結び付きが指摘されてきた。

この構造が、欧州各国にとって“安全保障上の盲点”となっていた。
オランダ政府は今回、「企業統治の欠陥」という法的枠を使いつつ、
実質的には 技術流出阻止のための防衛措置 を取った形だ。

GIGAZINEの報道によれば、オランダ側は
「Nexperia内部の意思決定が外国資本の影響下で透明性を欠いている」と判断。
これが「経済主権への脅威」に当たると見なし、発動を決断したという。
これは“反中政策”ではなく、“国家防衛の延長線上の経済判断”と位置づけられている。


欧州の経済安全保障と国家介入の時代

欧州連合は2020年代後半以降、サプライチェーン防衛を経済安全保障の柱として位置づけてきた。
特に半導体、EV電池、量子技術といった分野では、
“技術が流れる先”がそのまま国家の独立性を左右する。

オランダはASMLというリソグラフィ大手を抱えるが、
その機械の輸出制限を中国向けに課した過去もある。
今回のNexperia案件は、その延長線上にある。

すなわち、「技術の門番としてのオランダ」 が再びその権限を行使したのだ。

この流れは今後、ドイツ・フランスにも波及する可能性がある。
国家はもはや“市場の審判”ではなく、“企業の共治者”へと変貌しつつある。


中国への波紋とグローバルな余波

中国政府はすぐに反応した。
外務省報道官は「経済貿易の政治化だ」と非難し、
「中国企業の正当な権利を侵害する」と強い言葉で批判を表明。

しかし、欧州の空気は変わらない。
中国資本が関与する企業への監視は今後さらに厳格化され、
外国直接投資(FDI)の審査もより政治的な性格を帯びていく見込みだ。

Nexperiaへの措置は、その象徴的な“見せしめ”となる可能性が高い。
特に、AI用チップや通信インフラ分野に中国企業が関与するケースでは、
類似の介入が現実味を帯びてきている。


「技術主権」という名の新たな国境線

国家は今、かつてないほど企業の内部へと入り込んでいる。
それは経済統制の復活ではなく、
“技術主権を守るための境界線の引き直し” だ。

オランダ政府が発したメッセージは明快だ。
「国の根幹に関わる技術は、グローバル資本の手に委ねない。」

この決断は、一企業の運命を左右するだけでなく、
世界の半導体地図、そして西側陣営の価値観を再定義する可能性を秘めている。

そして私たちはいま、
“技術が国家を決める時代” の入り口に立っている。