Matter 1.5 ─ カメラが加わった瞬間、スマートホームは別のフェーズに入った。
2025年11月20日、Matterが新しいバージョン「Matter 1.5」を発表した。
仕様更新そのものはいつもの技術進化のように見える。
しかし今回、ほんの小さな行追加の中に、大きな意味が隠れている。
そう──カメラが正式サポートされたことだ。
これは、単なる機能拡張ではない。
スマートホームがこれからどこへ向かうのか──その方向が、ようやく形として見え始めた瞬間でもある。
Matterとは──便利さではなく、“共通言語”の構想
Matterは、「どのメーカーのスマート家電でも自由に連携できる世界」を掲げて始まった標準規格だ。
Apple、Google、Amazon、Samsung、そしてCSA(Connectivity Standards Alliance)。
テクノロジー業界の巨大勢力が揃って推進する規格は珍しい。
その理由はシンプルだ。
「ユーザーを“囲い込む”時代は終わり、データを共有する世界へ移るから。」
アプリの壁、メーカーの壁、OSの壁──それらはUIの違いにすぎない。
本当に価値があるのは、そこで扱われる生活データである。
Matterはその“共通化”のための言語だ。
Matter 1.5 のアップデートをざっくり言うと
| 項目 | 意味 |
|---|---|
| カメラサポート | ライブ映像・PTZ操作・状態共有 |
| シャッター・ゲート対応 | 家の可動デバイスの統一 |
| エネルギーマネジメント強化 | 家庭の電力使用をプラットフォーム間で共有 |
| セキュリティ仕様アップデート | 認証・通信フレームを刷新 |
表だけ見れば地味だ。
しかし、ひとつだけ性質が違う項目がある。
──カメラ。
なぜ今、カメラなのか?
ここには3つの力学がある。
① Google:映像は“次のAI学習データ”
Googleはすでに Nest を通じて膨大な動画データを得ている。
AIはセンサーデータより映像のほうが圧倒的に理解できる。
- 動線
- 顔
- 習慣
- 所作
- 生活リズム
すべて機械学習の素材だ。
Matter対応カメラの増加は、
Google視点では市場拡大+データ供給源の増加に近い。
② Apple:映像はプライバシーであり、領土
Appleは真逆だ。
映像は「センシティブデータ」の最上位に分類される。
HomeKit Secure Videoはクラウド依存ではなく、オンデバイス解析。
iPhoneやHomePodで処理し、録画は本人のAppleデバイス内に留める。
Matterにカメラが加わったのは──
Appleが作ったこの思想が、規格全体に影響し始めた証拠でもある。
③ 中国メーカー:市場制圧済み。あとは標準化待ち
今、世界中の格安スマートカメラの8割以上は中国製。
Imou、Reolink、Xiaomi、TP-Link、Hikvision派生ブランド…。
Matter対応の波が来れば、
製造ラインを変えずに市場をアップグレードできる。
ユーザーは「同じ値段で互換性が増えた」と受け取り、
メーカーは「ブランド障壁を崩壊」できる。
既存方式と比べると、Matterのカメラはどこに位置する?
| 方式 | 利点 | 欠点 |
|---|---|---|
| RTSP/ONVIF | オープン・自由度高い | UXが不親切、スマホ世代向けではない |
| メーカー独自(Tapo/Eufy等) | 操作が簡単・通知機能豊富 | クラウド依存・囲い込み構造 |
| HomeKit Secure Video | プライバシー設計最強 | Apple製品前提 |
| Matter Camera(1.5) | 相互運用・クロスエコシステム | 録画・分析仕様が未成熟 |
ここで重要なのは:
Matter 1.5 のカメラは“完成品”ではなく、“入口”。
まだ録画方式は決まっていない。
WebRTC採用は決まったが、TURNサーバー運用主体は未定。
ローカル録画かクラウド録画かも曖昧だ。
つまり:この仕様は「準備段階」。
Matterはどこへ向かうのか?──未来は二つに分かれる
| 未来A | 未来B |
|---|---|
| 家が賢くなる世界 | 家がユーザーを観察する世界 |
| 利便性・自動化・快適化 | 分析・最適化・監視 |
| ユーザー主導 | データ事業者主導 |
便利さのためにデータを渡すのか。
自由のために、制御権を握り続けるのか。
これは、機能比較の問題ではなく価値観の選択だ。
最後に ─ これはアップデートではなく、合図だ。
Matter 1.5 でカメラが加わった。
それは技術ではなく、意思表示だ。
「スマートホームの中心は、これから“映像”になる。」
この規格が描く未来が、
統一された便利な家庭なのか、それとも標準化された監視網なのか。
その答えは、思想ではなく──
ユーザーがどちらを選ぶかで決まる。





