SSD全盛でもHDDは健在──東芝とSeagateが30TB超を実現し、HAMR・MAMR・レーザー技術で進化を競っている。
Seagateが先行、東芝が両輪で追随
米Seagateは2024年、HAMR(熱アシスト磁気記録)方式を採用した30TB超のHDDを市販化。これが「世界初のHAMR実用HDD」として市場に登場しました。特徴は従来のCMR(コンベンショナル方式)を維持したまま高密度化を達成したこと。既存環境との親和性を重視するSeagateらしい戦略です。
一方の東芝は、HAMRとMAMR(マイクロ波アシスト磁気記録)の両輪で研究開発を進め、32TB(HAMR)/31TB(MAMR)の実証に成功しました。さらに、レゾナック(媒体)とTDK(ヘッド)という日本企業との連携による“日の丸連合”開発である点も注目です。東芝の強みは、SMR(シングル・マグネティック・レコーディング)を積極的に組み合わせ、容量を最大化する方向性にあります。

転送速度の壁とキャッシュ頼みの現実
HDDの転送速度は、10年前と比べてもほとんど変わっていません。理由は単純で、プラッター回転数の物理限界に突き当たっているためです。SATA 6Gbpsの理論上限600MB/sに届くことはなく、実効値は250〜280MB/sが精いっぱい。
体感性能を引き上げる手段はキャッシュ増量しかなく、最新モデルでは512MBキャッシュを搭載。近いうちに1GB級キャッシュも見えてきましたが、これは「力技」による応急策に過ぎません。
プラッターの限界、その先へ
プラッター枚数はすでに10〜11枚が主流となり、これ以上の増築は難しいとされています。残された伸びしろは、HAMRやMAMRといった記録方式の革新しかありません。今後は40TB、50TBといった領域にどこまで迫れるかが見ものです。
SeagateのHAMRは日本発のレーザー技術を背景に
実は、Seagate の HAMR 採用にはソニーの技術が深く関わっています。ソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)は Seagate と共同で、HAMR 用の 半導体レーザー素子 を開発。2018年からの出荷を経て、2024年にはタイ工場で量産を本格化しています。

このレーザー素子は、HAMR 記録時にディスク表面を瞬間的に加熱し、記録密度を高める重要な部材。ソニーが長年の技術を投入して素材・構造・耐久性レベルまで突き詰めたことで、Seagate の HAMR HDD 実用化の裏側を支える形になっているのです。
技術競争は部品・素材レベルにも及ぶ
これまで「記録方式(HAMR、MAMR)」や「媒体・ヘッド」という視点で語られがちでしたが、ソニーの関与は「レーザー素子」という部品市場の重要性を示しています。たとえ記録方式そのものでの優劣があっても、部材の供給体制・信頼性・コスト最適化がなければ量産・商品化は実現できません。
この意味で、東芝・レゾナック・TDK と並んで、半導体レーザー供給側での技術競争もまた、日本企業が世界に通用する舞台に立っている証と言えます。
要点
- 東芝は HAMR と MAMR の両輪で 30TB超HDD を実証(32TB/31TB)。
- Seagate は HAMR 一筋で 30TB超を市販化、世界初の実用化を実現。
- 東芝は SMR、Seagate は CMR と方式の違いがある。
- HDD の転送速度は頭打ち、キャッシュ増量が主な改善手段。
- プラッター枚数も限界に近く、今後は 記録方式の革新 が勝負。
- ソニーも HAMR 用半導体レーザーを Seagate と開発、日本勢の技術が裏方でも活躍。
- HDDは速度ではSSDに劣るが、大容量・低コスト・長期保存の需要で今後も重要な役割を担う。
まとめ
HDDは速度競争ではSSDに太刀打ちできません。しかし、大容量・低コスト・長期保存性という3つの価値において、いまもクラウドやデータセンターに不可欠な存在です。Seagateと東芝、アプローチは異なれど、30TBを突破した事実が示すのは──「HDDはまだ死んでいない」ということなのです。

