それは、光と影を描くための装置が、
科学を計算し、AIを生み出す計算機へ変貌した瞬間だった。
◆ プログラマブルシェーダ ─ 世界を“描く自由”の獲得(2001)
GeForce3(2001)と Radeon 9700(2002)が登場するまで、GPUは**「固定機能」**だった。
- 光の当たり方 → GPUが勝手に決める
- 影の形状 → GPUが勝手に決める
- 水面の揺らぎ → GPUが勝手に決める
ゲーム開発者は、GPUが用意した“箱庭”の中でしか表現できなかった。
そこに登場したのが プログラマブルシェーダ
- Vertex Shader(頂点の加工)
- Pixel Shader(質感・光・影を制御)
「描画処理をプログラムできる」という自由を手に入れた。
水面に反射する夕陽。
金属の冷たい光沢。
肌に落ちる柔らかい陰影。
表現が“デザイン”になった瞬間だ。
◆ ゲーム開発者より先に、科学者が飛びついた
プログラマブルになった GPU を見た科学者は、こう考えた。
「これで計算したら、CPUより速いのでは?」
そこで発明された裏技が Shader abuse(シェーダ悪用)。
- 画像としてデータを送り
- シェーダで計算し
- 結果をテクスチャとして回収する
GPU を 計算機として使っていた。
「描画処理」を 偽装して計算 していたのだ。
◆ CUDAの登場 ─ NVIDIAが“裏技”を正規ルートに変えた(2006)
NVIDIAは、世界で初めてこう宣言した。
「GPUで描画以外の計算をしなさい。」
GPU は 3D のための装置ではなく、
並列計算に特化したコンピュータ だと。
そして CUDAを発表した。
- C / C++ で GPU を叩ける
- 描画 API を経由しなくていい
- シェーダ悪用が不要に
GPU = GPGPU(汎用計算用GPU) の誕生である。
この瞬間、GPUは 計算プラットフォーム になった。
◆ OpenCL vs CUDA ─ “オープン”と“独占”の戦い
| 陣営 | API | コンセプト |
|---|---|---|
| NVIDIA | CUDA | 専用・速い・エコシステム戦略 |
| AMD / Apple / Intel | OpenCL | オープン・汎用・標準路線 |
結果は明白。
- AI研究者は CUDA を選んだ
- 科学技術計算も CUDA に乗った
- データセンターも CUDA を前提にした
CUDA を覚えることが、未来への入場券になった。
◆ 科学 / 暗号解析 / 機械学習へ拡張
GPU はゲームを捨て、
科学計算を奪い始めた。
| 分野 | GPU が奪い取ったもの |
|---|---|
| 流体シミュレーション | CPUクラスターの領域 |
| タンパク質解析 | スーパーコンピュータ |
| 暗号解析 | ASIC の一部を置き換え |
| 機械学習(深層学習) | GPUが標準 に |
GPUはこうして 研究者のコンピュータ になった。
◆ 結論:GPUは“世界を描く装置”から “世界を計算する装置”へ
GPU の進化曲線はこうだ。
固定機能T&L ──▶ Shader(描画の自由) ──▶ CUDA / GPGPU(計算の自由)
Shader は “表現の自由” をくれた。
CUDA は “発見の自由” をくれた。
GPUが捨てたもの:描画に閉じた存在
GPUが得たもの:世界を計算する存在
プログラム可能になったことで、
GPUは アート と 科学 の両方を動かすようになった。
▶ 次の章へ進む: 第6章「GPUは“描画装置”をやめ、世界の計算機になった」

