「リアルに近づく」のではなく、
「リアルを計算する」 時代が始まった。
◆ GPUが「現実」を計算するようになった理由
第5章で GPU は GPGPU としてプログラマブル化 された。
しかし当時はまだ、科学者や研究者の遊びに過ぎなかった。
2007〜2011年、GPU はゲーム以外の世界に踏み込んでいく。
特に爆発的に伸びたのが:
- 物理シミュレーション
- 粒子(パーティクル)演算
- リアルタイム光学シミュレーション
GPU が描いていたのは「影」ではなく 現実そのもの だった。
◆ 物理演算を描くのではなく“解く”
NVIDIA が導入した PhysX(物理エンジン) は象徴的だった。
- 木箱はただのオブジェクトではなく、重さを持った。
- 布はテクスチャではなく、風で揺れた。
- 水はアニメーションではなく、粒子によって計算された。
物理が“演出”から“計算”へ変わったのだ。
GPU はもはや「絵を描く」だけの存在ではなかった。
描くために必要だった“計算力”が、
描画そのものを 越えてしまった。
◆ GPUが「現実を計算する」象徴:HPC(スパコン)への採用
2008年、ひとつの事件が起きる。
世界最速スーパーコンピュータの上位に GPU が採用され始めた。
- 物理学
- 新薬開発
- 気象シミュレーション
いままで CPUクラスター が担当していた領域に、
GPU が乗り込んだのだ。
GPU の並列計算性能は、科学の世界でも 反則級 だった。
◆ CPU vs GPU ─「制御」と「現象」
| 用途 | CPU | GPU |
|---|---|---|
| 行動の決定(ゲームのAI / OS / 判断) | 制御・判断に強い | 弱い |
| 物理・光・現象(位置 / 衝突 / 演算) | 苦手 | 圧倒的に強い |
CPU は 考える頭脳。
GPU は 現象を作る筋肉。
現象の計算を GPU に任せた瞬間、ゲームは世界になった。
◆ ゲームはシミュレーションになった
最初に “GPUが現実になる” を体現したのはゲームではなく シミュレーション だった。
- 航空機の CFD(流体計算)
- 気象の大規模数値モデル
- 血流や臓器の動きのシミュレーション
コンピュータは現実を再現するのでなく、計算し始めた。
GPU は、科学のための現実を作り出し始めた。
◆ シェーダが「現実の数学」に変わった
プログラマブルシェーダは アーティストの道具 だったが、
CUDA によって 科学者の道具 になった。
Shader(芸術) → GPGPU(科学)
この変化を象徴する言葉がある。
GPU は “世界を描く” 装置ではなく
“世界を計算する” 装置になった。
◆ 結論:GPUは 現実を計算するコンピュータ になった
進化の流れ:
描画(Shader)
↓
計算(GPGPU)
↓
最適化(GPUスパコン)
GPU は描画を捨てたのではない。
描画のために磨かれた性能が、
描画以外の用途でも強すぎた。
GPU の本質は 並列計算機 である。
そしてこの計算力が、
AIを動かす力になる ことを、人類はまだ知らない。

