GPUの歴史 ─ 第6章:2006年、GPUは“描画装置”をやめ、世界の計算機になった

GPUの歴史 ─ 第6章:2006年、GPUは“描画装置”をやめ、世界の計算機になった TECH

「リアルに近づく」のではなく、
「リアルを計算する」 時代が始まった。


◆ GPUが「現実」を計算するようになった理由

第5章で GPU は GPGPU としてプログラマブル化 された。
しかし当時はまだ、科学者や研究者の遊びに過ぎなかった。

2007〜2011年、GPU はゲーム以外の世界に踏み込んでいく。

特に爆発的に伸びたのが:

  • 物理シミュレーション
  • 粒子(パーティクル)演算
  • リアルタイム光学シミュレーション

GPU が描いていたのは「影」ではなく 現実そのもの だった。


◆ 物理演算を描くのではなく“解く”

NVIDIA が導入した PhysX(物理エンジン) は象徴的だった。

  • 木箱はただのオブジェクトではなく、重さを持った。
  • 布はテクスチャではなく、風で揺れた。
  • 水はアニメーションではなく、粒子によって計算された。

物理が“演出”から“計算”へ変わったのだ。

GPU はもはや「絵を描く」だけの存在ではなかった。

描くために必要だった“計算力”が、
描画そのものを 越えてしまった


◆ GPUが「現実を計算する」象徴:HPC(スパコン)への採用

2008年、ひとつの事件が起きる。

世界最速スーパーコンピュータの上位に GPU が採用され始めた。

  • 物理学
  • 新薬開発
  • 気象シミュレーション

いままで CPUクラスター が担当していた領域に、
GPU が乗り込んだのだ。

GPU の並列計算性能は、科学の世界でも 反則級 だった。


◆ CPU vs GPU ─「制御」と「現象」

用途CPUGPU
行動の決定(ゲームのAI / OS / 判断)制御・判断に強い弱い
物理・光・現象(位置 / 衝突 / 演算)苦手圧倒的に強い

CPU は 考える頭脳
GPU は 現象を作る筋肉

現象の計算を GPU に任せた瞬間、ゲームは世界になった。


◆ ゲームはシミュレーションになった

最初に “GPUが現実になる” を体現したのはゲームではなく シミュレーション だった。

  • 航空機の CFD(流体計算)
  • 気象の大規模数値モデル
  • 血流や臓器の動きのシミュレーション

コンピュータは現実を再現するのでなく、計算し始めた

GPU は、科学のための現実を作り出し始めた。


◆ シェーダが「現実の数学」に変わった

プログラマブルシェーダは アーティストの道具 だったが、
CUDA によって 科学者の道具 になった。

Shader(芸術) → GPGPU(科学)

この変化を象徴する言葉がある。

GPU は “世界を描く” 装置ではなく
“世界を計算する” 装置になった。


◆ 結論:GPUは 現実を計算するコンピュータ になった

進化の流れ:

描画(Shader)
 ↓
計算(GPGPU)
 ↓
最適化(GPUスパコン)

GPU は描画を捨てたのではない。

描画のために磨かれた性能が、
描画以外の用途でも強すぎた。

GPU の本質は 並列計算機 である。

そしてこの計算力が、
AIを動かす力になる ことを、人類はまだ知らない。


▶ 次の章へ進む: 第7章:AIとディープラーニング ─ GPUがAIを動かし、AIがGPUを作り変える