検索帝国として長く君臨してきた Google は、基本的に「遅い」会社だ。
新技術にいち早く飛びつくよりも、勝ち筋が見えた段階で一気に取りに行く。
だからこそ、同社が月額制のAIサービスを、日本で明確な価格を付けて投入してきたという事実は象徴的だ。
これはChatGPT Go への対抗策、という単純な話ではない。
Google自身が「AIは無料で配る段階を終えた」と判断した、その合図である。

無料AIの“大盤振る舞い”が意味していたもの
ここ最近、Geminiの無料枠は明らかに太かった。
回数制限も緩く、性能も高い。
一見すると、ユーザーにとっては歓迎すべき状況だ。
だが業界を追っている人間なら、
その裏で相当な収益ダメージが出ていることも察していたはずだ。
無料でAIをばら撒くフェーズは、
あくまで「お試し期間」に過ぎない。
使われ方、負荷、ユーザーの定着率、
そして「どこからなら金を取っても離脱しないか」。
そのデータは、すでに十分に集まった。
いま起きているのは、実験の終了である。
影響を受けるのは、実は限られた層だ
この流れは、すべての人に平等な影響を与えるわけではない。
むしろ影響を受けるのは、
AIを日常的に使い、
生産性向上のために積極的に組み込んできた層だ。
彼らは、心のどこかでこう思っていたはずだ。
「これ、本当に無料でいいのか?」
調べ物、文章作成、要約、発想の壁打ち。
明らかに“時間”と“思考コスト”が削減されている。
それが月1000円前後で維持されるなら、
むしろ安いと感じていた層でもある。
一方で、
もとより生産性向上に関心がなく、
AIを遊びや冷やかしで触っていただけの層には、
この変化はほとんど影響しない。
無料枠が残る限り、彼らの体験は大きく変わらない。
これは価格競争ではない
よくある見方に
「AIの価格競争が始まった」というものがある。
だが、実態は少し違う。
起きているのは、
AIに月1000円前後払う世界が“確定した”という現象だ。
この価格帯は偶然ではない。
スマホ料金感覚で払える。
仕事や日常で使えば、すぐ元が取れる。
解約すると、生産性が目に見えて落ちる。
この条件が揃った時点で、
AIは嗜好品ではなく、日用品になる。
Googleがそこに参戦した。
それ自体が、強烈なメッセージだ。
無料AIが終わるのではない
誤解してはいけない。
無料AIが消えるわけではない。
だが、
「無料で、十分に使えるAIがずっと続く」
という期待だけが、静かに役割を終えようとしている。
無料枠は入口として残る。
しかし、仕事に耐える領域は有料になる。
それは搾取ではなく、技術が実用段階に入った結果だ。
終わるのは、幻想だ
AIの無料時代が終わる、という言葉は刺激的だ。
だが正確には、こう言うべきだろう。
終わるのは、
「価値のあるものが無料で使い続けられる」という幻想だ。
Googleが参戦したという事実は、
その幻想に対する、もっとも分かりやすい合図だった。
静かだが、決定的な合図である。


