Win11移行は「事件」ではなく「徴候」
Windows 11 への移行要件やサポート期限の揺さぶりは、単なる運用の困りごとではない。OSという厚いレイヤーに企業ITの運命を委ねる設計そのものが、クラウド・コンテナ・ブラウザ・AIの収斂によって時代遅れになりつつある──その徴候だ。欧州はこれを政治ではなく技術の論理として捉え、「脱Windows」ではなく「脱OS」を進めようとしている。
OSは“前面”から“背面”へ
実行環境の分散
・クラウド(SaaS/PaaS)、コンテナ(Kubernetes)、VDI/DaaS、そして高機能化したブラウザ。アプリは“端末”から“基盤”へと重心を移した。
・ローレベルなデバイス抽象化やドライバ管理にOSは不可欠だが、業務体験の主語ではなくなった。
ユーザー体験の再配線
・ブラウザはWebGPU/ファイルシステムアクセス/ローカルAI(NPU/CPU/GPU推論)で“軽量OS”化。
・企業アプリはPWA化・リモート実行・API化が進み、端末OSは“配線板”としての比重が増す。
ベンダーの自己否定
・MicrosoftはCopilotを“OS上のアプリ”ではなく“OSを横断する体験”として押し出し、GoogleはChromeOSでOSの存在感そのものを薄くする。両者とも“UIの主導権をOSからAIへ”移している。
AIは“アプリ”ではなく“実行サブストレート”になる
入力→返答がUIを再定義
・メニュー、ファイル、アプリの境界は、エージェントが引受ける。ユーザーは「目的」を投げ、AIがクラウド・ローカル・VDI・APIを束ねる。
エッジ推論の意味
・端末NPU/GPUのローカル推論は、プライバシー、遅延、回線逼迫のボトルネックを解く。OSの設定・検索・自動化はAIが吸収し、OSは“AIを走らせるハード抽象化層”へ退く。
管理の再設計
・従来の「アプリ配布・パッチ・グルポリ」は、AIがオーケストレータになる前提で再設計される。ID、データ境界、監査はAIの行為モデル(プロンプト/ツール使用/ログ)に結び付く。
欧州の狙いは「脱Windows」ではなく「脱OS構造」
- 交換可能性の最大化
・OSの上で閉じるのではなく、Web/コンテナ/VDI/AIを標準実行基盤に格上げし、端末OSを“交換可能な部品”にする。端末刷新やEoLで組織が人質に取られない設計を制度と調達指針で後押しする。 - ベンダーに逆らうのではなく、見えなくする
・OSを排除するのではない。見えなくする。可視の主語は“AI+ブラウザ+ID+ポリシー”であり、OSは背後の抽象化に徹する。 - 結果として多様性が生まれる
・Windows、ChromeOS、Linux、macOS、VDIが同一の“AI/ブラウザ/ID/データ境界”に接続される。端末差異は調達と保守の領域へ退避し、アプリ体験は基盤側の標準で揃う。
次の覇権は「OS」ではなく「AI実行基盤」
- 主要戦場
・NPU/Edge推論(端末性能と電力設計)
・WebGPU/ブラウザAPI(クライアント側の表現力と安全性)
・エージェント実行規格(ツール呼び出し、権限管理、監査ログ)
・ID/ポリシーとデータ境界(ゼロトラストのAI時代版)
・クラウド実行面(サーバ推論、コンテナ基盤、VDI/DaaS) - 体験の主導権
・ユーザーはOSではなく“AIランチャー”と対話する。OSブランドより、AI体験・拡張性・監査可能性・費用対効果が採用要件になる。
CIO/ITDMのための実装プレイブック
- 2レイヤード・ワークスペース
・フロント(ユーザー):ブラウザ中心+PWA+エージェントUI。
・バック(実行):SaaS/API、Kubernetes、VDI/DaaS。OSはどれでも良い設計にする。 - アプリの“PWA/VDI/ネイティブ”仕分け
・PWA可:業務ポータル、申請、BIダッシュボード。
・VDI/DaaS:レガシーWindows依存、GPU共有が要る設計ツール。
・ネイティブ最小化:セキュリティ製品、周辺機器ドライバ、ローカルAIエージェントのみ。 - IDこそ中核
・IdPで認証・端末姿勢・権限の一元化。ブラウザ・エージェント・VDI・APIの全呼び出しを条件付きアクセスとDLPで縛り、AIのツール使用も監査に載せる。 - データの“境界”を決める
・機密データはクラウド保管でクライアントに展開しない。AIはサーバ側で実行し、必要最小限のみエッジへ。ローカル推論は匿名化・フィルタ・オンデバイスポリシーとセットで。 - 端末の調達思想を反転
・“最強のWindows PC”から“基盤につながる端末”へ。ChromeOS Flexや軽量Linux、Windowsの混在を許容し、EoL/買い替えの痛手を構造的に小さくする。 - Windows依存の出口戦略
・Win10/Win11から“アプリ単位”でPWA化・SaaS置換・VDI移送を並行。管理はIntune/MEM等で多OS共存前提へ。将来のOS要件変更に耐える“面の設計”に切り替える。 - AI運用のSOP
・プロンプト、ツール実行、外部API、ファイルアクセスをすべて行為ログ化。再現性と監査可能性を担保し、モデル更新やポリシー変更に耐える。人間の承認ステップ(人間の壁)を要所に立てる。
選ぶべきものはOSではない
これから企業が選ぶのは“OS”ではなく、“AIを走らせる実行基盤”だ。OSは見えなくなり、交換可能な部品へと退く。主役はAI、ブラウザ、ID、データ境界、そしてクラウドとエッジの実行面。Win11移行の一件は、その方向へ進むべき理由を、十分すぎるほど具体的に示した。
「OSの終わり」は、混乱ではない。設計の自由を取り戻すための好機である。

