HBMの先へ:スタンフォードが作った“真の3Dチップ”の衝撃

HBMの先へ:スタンフォードが作った“真の3Dチップ”の衝撃 TECH
HBMの先へ:スタンフォードが作った“真の3Dチップ”の衝撃

序章:静かに訪れた“平面の終わり”

半導体の歴史は、いつだって「平面の限界」との戦いだった。
2Dという檻のなかで、配線を微細化し、トランジスタを詰め込み、
それでもなお増え続ける計算需要に応えるために、
我々は平面を薄く、狭く、鋭く削り続けてきた。

だが、AIが生んだ計算負荷はその前提を崩した。

ChatGPT、Claude、Llama──
いま世界で動くLLMの大半が、
「演算」ではなく
「データ移動」そのものにエネルギーを奪われている。

どれだけFLOPSを増やしても、
どれだけGPUを束ねても、
根本的なボトルネックは動かない。

メモリの壁(Memory Wall)。

この壁を、材料そのものを変え、
構造そのものを変えることで破壊しようとした研究がある。

スタンフォード大学を中心とした研究チームが発表した
モノリシック3Dチップ──
これは単なる新製品の話ではない。

“平面の終わり”と“立体の夜明け”を告げる、
技術史的な事件だ。

Just a moment...

第1章 AIを律速していたのは「計算」ではなく「移動」だった

AIの計算を語る時、多くの人はFLOPSを思い浮かべる。
だが、現実は違う。
GPUはしばしば“待っている”。

演算ユニットは空回りし、
重み(Weights)がメモリから来るのを、ただ待っている。

AIの処理時間のほとんどは、
計算ではなく、データ移動に吸い込まれている。

  • モデルサイズ:数百GB
  • メモリ帯域:限界
  • キャッシュ階層:物理的距離が支配

この構造的ボトルネックを可視化した言葉が、
“メモリの壁”だ。

HBM(High Bandwidth Memory)は、
この壁を突破するための応急処置として登場した。

  • バス幅を極限まで並べる
  • 配線を太く、短く
  • チップを“横方向”に強化する

結果、HBMは確かにAIを変えた。

しかし、どれだけバスを横に並べても、
平面の制約は消えない。

HBMは「平面の最終進化」であって、
「次元の変革」ではなかった。


第2章 過去の“3Dチップ”は、実はすべてニセモノだった

研究者は長く「3Dチップ」を夢見てきた。
だが、その大半は“なんちゃって3D”にすぎない。

  • TSV(Through-Silicon Via)
  • 3DスタックDRAM
  • Hybrid Bonding

確かにチップは縦に積んでいる。
しかし構造はこうだ。

横で作ったシリコンの層を作ったあと、あとで“貼り付ける”。

層間を結ぶのは直径数µmのTSVだけ。
接続点は数千〜数万。

つまりZ方向は“細い針金”数本でしかつながっていない。

見た目は3Dだが、動作はほぼ2D。

この方式では“帯域”は伸びても、
“レイテンシ”はほとんど改善しない。

つまり、
3Dという名前を使いながら、本質は2Dの延長だった。


第3章 本当の3D──モノリシック3Dは“その場で積む”

モノリシック3Dは、既存の「貼り付け」とは決定的に違う。

層そのものを、シリコン上で直接積み上げる。

  • 1層目を作る
  • その上に直接2層目を形成
  • さらにその上に3層目…

この方式では、層間距離は数十nmまで縮む

TSVのような太い柱ではなく、
ナノスケールで縦方向に無数の接点を形成できる。

結果として、

  • Z軸すべてが巨大な“バス”
  • データ移動距離が1/1000
  • 帯域が桁違い
  • レイテンシも桁違いに低下

平面の常識が、ここで崩壊する。

HBMが“平面方向の極限”なら、
モノリシック3Dは“次元そのものの刷新”。

これは「ムーア則の延命」ではなく、
「ムーア則の別解」だ。


第4章 なぜ今までできなかったのか──熱という絶対的障壁

モノリシック3Dは夢の技術だった。
数十年もの間、だれも成功できなかった。

理由はシンプルで、そして絶望的だった。

上の層をつくる時の熱が、下の層を破壊する。

半導体は高温プロセスが必須。
上層をアニール(熱処理)した瞬間、
下層のトランジスタは死ぬ。

これでは積層が成立しない。

スタンフォードらが成し遂げたブレークスルーは、
構造ではなく「材料」が突破口だった。

  • Carbon Nanotube FET(CNT-FET)
     → 低温で形成できる新しいトランジスタ
  • RRAM(抵抗変化メモリ)
     → 積層に適し、熱に強く、低電力

材料を変えることで、
構造が変わり、
構造が変わることで、
アーキテクチャそのものが変わった。


第5章 SkyWater──なぜTSMCでは不可能だったのか

今回のチップは SkyWater という
アメリカの小さなファウンドリで作られた。

SkyWater Technology | U.S. Semiconductor Manufacturer
SkyWater is a U.S.-based and solely U.S.-owned, DMEA accredited pure play Technology Foundry, specializing in advanced I...

TSMCでもSamsungでもIntelでもない。

理由は単純で深い。

大手ファウンドリは“最先端プロセス”を守るため、
プロセス改造を一切許さない。

新材料?
低温プロセス?
RRAMとCNT-FETの混在?

TSMCの5nmではありえない。

歩留まりリスクが高すぎるため、研究用途の改造はほぼ不可能。

SkyWaterは逆だ。

  • 研究者向けにプロセスを開放
  • 国内製造の戦略的重要性
  • 改造・新材料・新工程に柔軟
  • 国防用途でも使われる高信頼ファウンドリ

「できる場所」が、
世界中でここしかなかった。


第6章 初期実測:4倍。シミュレーション:12倍。理論値:100〜1000倍。

今回の研究は“机上の空論”ではない。
動いた。

  • プロトタイプ実測 → 4倍性能
  • 多層化シミュレーション → 最大12倍
  • エネルギー遅延積(EDP) → 100〜1000倍改善

AIチップのボトルネックであるデータ移動コストが、
桁違いに下がる。

この意味は大きい。

  • AI推論の電力が激減
  • エッジAIの可能性拡大
  • 巨大モデルのリアルタイム処理
  • データセンターの構造変革

“電力問題”を根本からひっくり返す可能性すらある。


第7章 HBMの次に来る世界──すべてのメモリが“ほぼL1”になる

従来のAIチップは階層が支配していた。

  • HBM(外側)
  • L2キャッシュ
  • L1キャッシュ
  • レジスタ
  • コア

距離が帯域とレイテンシを決める。

だがモノリシック3Dでは、
距離という概念が薄れる。

コアの真上にメモリが置ける。
さらにその上にも置ける。
上層・下層すべてが“直結”に近づく。

これは事実上、

「巨大なL1キャッシュを積み重ねた世界」

の到来を意味する。

モデルは“外”から来るのではない。
“上”から降ってくる。

AIの物理法則が変わる。


第8章 この技術がもたらす未来──NVIDIA・Intel・TSMCの分岐点

NVIDIAはHBMという平面拡張の王道を極めた企業だ。
だが次の時代は、平面ではなく“立体”に移る。

  • NVIDIA:HBM中心の設計哲学が限界を迎える
  • Intel:Foverosは「貼る方式」なので到達できない領域
  • TSMC:微細化競争以外の戦場が生まれる
  • アメリカ政府:国内製造の成功に戦略的価値

今回の研究は単に“性能が上がる”話ではない。

ゲームのルールが変わる。

最先端は平面ではなく立体へ。
材料はシリコンだけではなくなる。
AIチップは帯域の世界から、立体密度の世界へ入る。


結語:HBMの先にあるもの──“次元”が変わると世界が変わる

コンピューティングは「平面」を極限まで使い切った。
HBMはその最後の英雄だった。

だがAIが連れてきた計算需要は、
平面という制約を超える構造を要求した。

その答えが、
スタンフォードのモノリシック3Dチップである。

これは、物理法則を変えたのではない。
人間が使う“構造の選択肢”を変えた。

平面の終わり。
立体の夜明け。

HBMの先に広がる未来は、
すでに動き始めている。