「手計算を嫌った青年が、知的労働を自動化する時代を開いた」
─ ダニエル・ブリックリンという男が抱えていた“怠惰への怒り”
彼は「電子表計算ソフト」の発明者として知られますが、もう少し正確に言うなら、
「知的労働の自動化」という思想をパソコンにもたらした男です。
1970年代後半、MIT出身でDECのエンジニアだったブリックリンは、
MBA課程で教授たちが黒板にチョークで数字を計算し直すのを見て、
「なぜこんな反復作業を人間が?」と呆れます。
そこで作ったのが、世界初の表計算ソフト「VisiCalc(ビジカルク)」。
彼のすごさは、コンピューターを「遊びの機械」から「仕事の機械」へ変えたことです。
Apple II は当時まだホビー向けの道具に過ぎませんでした。
でもビジカルクが登場すると、経理担当や経営者がそれを「業務ツール」として求めるようになり、
結果として Apple II の販売を劇的に押し上げました。
スティーブ・ジョブズも後にこう語っています。
“VisiCalc がなかったら、Apple II はこれほど売れなかった。”
技術よりも“哲学”の勝利
ブリックリンの功績は、技術的には単純です。
画面上のセルに数字を入れれば自動再計算──それだけ。
でも、人間が頭の中で行う「仮定と結果の反復」を、ソフトが可視化した。
これは、知的活動の「思考のミラー化」です。
今の私たちが Excel で「もし○○なら?」を瞬時に試す、その起点がまさにビジカルク。
AIやデータサイエンスの基礎にある「試行の反復」「仮説検証ループ」は、
この発明から始まったと言っても過言ではありません。
“ブルックリンの偉人伝”として読むなら
ブリックリンは大企業の技術者でも天才数学者でもなく、問題を見抜く常識人でした。
彼の行動原理は極めてシンプルです。
「面倒くさいと思ったことは、コンピューターにやらせればいい。」
この一言が、後のローコード/ノーコード文化、さらには「AIに任せる発想」へと連なっていく。
つまり、AI時代の原点は、ブリックリンの“怠惰の哲学”にあるのです。
小さなまとめ
- ブリックリンは「表計算ソフト」というより、「思考の再現装置」を発明した。
- 彼の発想が、パソコンをホビーからビジネスへ押し上げた。
- Excel、Lotus 1-2-3、Google Sheets──その全ての祖先。
- そして今日、AIが人間の思考過程を補助するのも、まさにその延長線上。
週末に語る“人間の偉人伝”として、これほど味のある題材はありません。
技術ではなく、「人が怠惰であることの尊さ」を描いた革命家──
それが、ブルックリンのブリックリン(BrooklynのBricklin)です。


