この世には便利なITツールがたくさんあります。最近流行りのビジネスチャットも、そのひとつ。今回は、このビジネスチャットツールがいかなものかについてご紹介します。
その上で、NextCloud(ネクストクラウド)についてオーバービューし、オウンドクラウドを運用するメリットをご紹介します。
ビジネスチャットとは?
まず最初に、ビジネスチャットについてご存知ない方に簡単にご説明すると、「ビジネス上のコミュニケーション・情報共有をチャットを中心に円滑に行う」ことを目的としたツールと理解いただければ、いまのところは十分です。
ビジネスチャットの普及
旧来、PCを使ったビジネス上のコミュニケーションツールといえば、Eメールがその代表でした。Eメールを使用することのメリットはいまも失われてはいません。しかし、取引先とのやり取りを思い浮かべてもらえばイメージしやすいと思いますが、例えば対外的なやり取りにおいて、毎度文頭に張り付く「いつもお世話になっております。XXXの~~~です。」という呪縛から開放されたいと思ったことが1度や2度はあるでしょう。このような不便がスマホ登場で一気にフラストレーションとして爆発し、人々は外出先のスマホから積極的に音声以外の手段で簡単にコミュニケーションできるツールを欲したのでした。これはビジネスに限らず、友人や家族とのプライベートなコミュニケーションにおいても同様の欲求として長らく潜在的に横たわっていたのです。
このような背景から、これを解決する手段としてプライベートシーンでは、LINEが爆発的に普及したのはみなさんご承知の通りです。チャットというのは、メールと違い、リアルタイムに会話を進めることができます。音声通信が憚られるような電車内などにおても、家人とリアルタイムにコミュニケーションが取れます。ポストするだけでスレッドメンバーに共有されるお手軽さも、大いに歓迎されました。
一方、ビジネスシーンにおいては、長らくSlackが主役を演じました。数多のITツールとの連携機能を強化していったSlackは、主にIT企業の開発者にとって大変便利なツールであったのです。Slackの成功を見て、多くのコンペティターが”Slack Alternative”の座を狙って参入してきましたが、コロナ禍のテレワークブームで、Office365などWindows環境での強力な連携機能を武器にMicrosoftのTeamsが一気にトップの座躍り出ました(Teamsがシェアを伸ばした大きな理由はビデオ会議の手軽さにあった気がしますが…)。

日本国内の動向
一方、日本国内ではシンプルなコミュニケーションツールの機能に絞り込み、使い勝手を重視したChatworkが支持されており、国内シェアNo.1の座を長らく維持しています。従業員数の少ない零細企業においては、Office365の契約がない、事実上フリーで使えること、管理者不要のわかり易さなどの利点から、主にIT系とは縁遠い業種の企業で大きなシェアを持っていました。ところが、2021年にグループチャットの利用制限の強化が行われ、運用に大きな不自由を抱えることとなりました。

私もChatworkにはお世話になっていましたが、ユーザービリティやレスポンス、安定性などは実に素晴らしいものです。もし、あなたの会社が従業員5人以下であれば、まずはこれを第1の選択肢としてビジネスチャットがいかに便利なものかを無料版で肌で感じていただくのは、とてもよい方法です。

なぜ、ビジネスチャットを使うべきか?
では、ビジネスチャットを利用するメリットを簡単に整理しておきます。
とにかくお気軽
既述の通り、メールを打つのは儀式ばった慣習によって億劫です。一方、電話は相手のいまを物理的に拘束してしまうことに対する遠慮があります。チャットならば、気軽に要件のみ送ることができます。相手が手隙ならばすぐにリプライをもらえて、そのまま会話に流れることもできます。もし、多忙だったとしても、メッセージは後で伝わります。
記録が残る
電話でのやり取りとなると、重要なポイントはメモに残す必要に駆られるでしょう。しかし、チャットならばその必要もありません。
グループでリアルタイムにディスカッションできる
メールや電話は基本的に1:1のコミュニケーションですが、グループチャットならば、メンバーが同時にチャットで会話することができます。宛ら自席にいたままミーティングに参加できるようなものです。このグルーピングは社内外を問わず、プロジェクト単位で設定することもできるため、仕事が捗ります。
ファイルの共有がラクラク
一般的なビジネスチャットツールは、チャットボード上でファイルの共有機能がサポートされています。ドキュメントの回覧や、ディスカッションテーマに関連する資料の共有も煩わしいところがありません。
目的別のボード設置でDX推進
メンバー同士のチャットのみならず、例えば「総務からのお知らせ」などを設置すれば、情報通達を簡便かつ迅速に行うことができますし、「ご意見箱」を設置することで社内の課題を早期に吸い上げることができるようになります。「業界動向」を設置して、部内での情報共有を活発化するのもいいでしょう。アイディア次第で、業務効率化、狭義の「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」が実現できるのです。
このように、コミュニケーションの円滑化と情報共有の促進という観点において、ビジネスチャットがいかに有用なツールであるかをご理解いただけたことでしょう。
ビデオ会議を気軽に開催できる
テレワークで一躍脚光を浴びることとなったビデオ会議。この普及によって、月曜日朝の新幹線や飛行機のビジネス利用が大きく減少するに至ったという話がでるほど、物理拠点を超えてメンバーが一同に集う会議を持てることのメリットは大きいものです。参加人数の多寡の差はあれど、大抵のビジネスチャットにはビデオ会議を開催する機能が備わっています。
ビジネスチャット利用のコストの壁
このように便利なビジネスチャットですが、零細企業の経営者にとっての導入障壁はやはりコストの観点でしょう。従業員10名+外部に40名分のアカウントを用意しようと思えば、その数にスケールして運用コストが掛かります。Chatworkを例にとると、スタンダードなビジネスプランでは、1ユーザーIDあたり500円/月(年間契約)、50名分を用意するために必要な総コストは25,000円/月ということになります。資金潤沢であれば何も問題はないのですが、一般的な感覚として、これはなかなかのコスト負担感です。ビジネスチャットの活用が進んで、業務改善の効果を実感できれば、これは決して高い買い物でないと思える日がくるかもしれませんが、仕掛りの段階においては、利益を産まないコストであることに違いはありません。IDを社内10名分のみで我慢すれば5,000円/月に抑えることができますが、それではメンバーが多ければ多いほど利便性が増すビジネスチャットのよさが半減してしまいますから、そこは妥協したくないところです。
ここで、本題のNextCloudの登場です。
ようやくNextCloudの話
NextCloudをご存知の方ならば、すでに違和感をお持ちのことでしょう。厳密には、NextCloudはビジネスチャットツールではありません。しかし、NextCloudはアプリ追加のためのモジュール拡張構造を持っており、「Talk(トーク)」というアプリを追加することで、ビジネスチャットツールとしての機能を発揮することが可能になります。

NextCloudとは

その本性は、”クラウドストレージ”に分類されるアプリケーションです。イメージで言えば、DropboxやGoogle Driveなどが近いでしょう。ユニークなのは、”クラウド”を自称しならが、キャッチコピーは”The self-hosted productivity platform that keeps you in control”と自己管理を前提としている点にあります。SaaS全盛の現在、フリーかつオープンソースなオンラインストレージ構築のための高品質なプラットフォームは大変貴重な存在です。
つまり、あなた自身の責任においてこれを構築する限り、インターネット上で自由に運用することが可能なのです。そこには、ユーザー数の制限も、チャットボードの設置数の制約もありません。ストレージは自分が必要な容量を思う存分アサインすることが可能なのです。なんと素晴らしいことでしょう!
NextCloudを知っていただくには、公式で公開されている名だたるクラウドサービスとの比較表をご覧頂くのが早道です。いかにNextCloudが素晴らしいものかをご理解いただけると思います。

NextCloudを運用するにはどうしたらよいか?
NextCloudの素晴らしさをご理解いただいたところで、実際にあなたがこれを運用するために用意しなければならない環境についてご説明しましょう。
動作環境
NextCloudのサーバー・クライアントの動作環境については、公式サイトに最新バージョンのシステム要求の掲載がありますのでそちらをご参照ください。
いかがでしょうか?ほとんど制約がないと言ってよいというくらい、幅広い環境がサポートされています。サーバーへの要求は、現在何らかのサーバーOSをインストールすれば難なく条件を満たすことができるでしょうし、クライアントの対応の広さが特筆です。WindowsやMacなどのデスクトップはもちろんモダンブラウザで動作させることができますし、AndroidやiOSでは専用のクライアントアプリも準備されています。凡そ、ビジネスシーンで利用されているクライアントで利用できないことはありません。
気を使うとすると、サーバー側の環境です。快適な動作のためには、高速なCPUの処理スピード、十分なメモリ容量、高速かつ大容量のストレージが求められます。とはいえ、現在流通しているサーバー機器やレンタルサーバー上での動作ではそれほど不満はないでしょう。
自宅サーバーとして運用する
NextCloudはモダンな設計のアプリケーションです。サーバー・クライアントとも、快適な動作のためには、相応の性能を求められます。それでも、休眠中の古いPCを活用してみる手はあります。ちなみに、私はテスト段階において、Xigmanasを搭載した自宅サーバーのVirtualBox上の仮想環境でNextCloudを運用してみましたが、使用感としてストレスを感じたことはそれほどありませんでした。あったとすれば、古いHDDの低パフォーマンスに起因するものでしょう。CPU使用率が上に張り付いたりすることもありませんでした。以下に簡単なスペックを掲載しておきます(あくまで、仮想マシンへの割当リソースとして)。
| CPU | Intel Core i5 7200 |
| メモリ | 16GB |
| HDD | 300GB |
| ネットワーク | 100M/bps |
| OS | Ubuntu Server 20 |
メモリは多少盛っていますが、CPUが7世代のi5ですので、どこのご家庭でも1台くらいは転がっていそうなありふれた性能です。使用感を確かめる程度の目的ならば、このスペックで十分でした。
実は、これに先立って、Raspberry 3 でNextCloudを動かしてみたのですが、それは絶望的なスピードでした。ストレージがSDカードでメモリが1GBの環境では無理からぬところでしょう。こちらは到底おすすめできません。
話を戻します。サーバーをインターネットに公開するのは、TCPポート443を開放するだけでよいです。あとはお好みのDDNSサービスでドメインを取得し、Let’s EncryptからSSL証明書を発行してもらえば、その日からプライベートクラウドストレージを使いはじめることができます。本格的な運用のためには、冷却を考慮したマシンを用意する必要があるでしょう。日本の夏は暑いですから。
ただし、実際にはインターネットサーバーの構築・運用スキルをお持ちの方でないと難しいです。失うものは時間だけとの割り切りができる方は、ぜひ挑戦してみてください。そうでない方は次項に進んでください。
レンタルサーバーを利用する
NextCloudは、一般的なWebアプリケーションが動作する環境でなら動作させることができます。例えばWordPressが稼働する安価なレンタルサーバー上で難なく動作します。レンタルサーバーならば、夏の暑さでサーバーがダウンすることもありませんし、台風で停電することもありません。多少の費用は掛かっても、本格的な運用ならばこちらを選択すべきでしょう。実際、私もビジネスユースではそうしています。レンタルサーバーならば、OSやネットワークの設定、ミドルウェアのインストールまで準備されていますから、IT担当者レベルのスキルがあれば、インストールすることが可能でしょう。
次回は、具体的にレンタルサーバー上でNextCloudを稼働させるまでの手順をご紹介してみようと思います。
まとめ
いかがでしたか?
膨大な情報が飛び交う現代社会においては、これを補助してくれる武器なくしてはあっという間に情報の波に飲まれてしまいます。この世には様々なソリューションが存在するわけですが、あまり多くのツールを利用するのは得策ではありません。今後、徐々に紹介していこうと思いますが、NextCloudにはクラウドストレージやビジネスチャットの他にも、Gmailライクなメールクライアントや、Google カレンダーのようなカレンダーアプリ、グループでのタスク管理を容易にしてくれるアプリなど、便利な機能を追加することができます。重要なのは、1つのプラットフォームでこのような豊富な機能を包括的に利用可能なことであると思います。これは、特にITリテラシーの低いメンバーでの利用には重要なファクターです。
NextCloudは、すでに何年も活用されてきているものです。では、なぜ私が今更これを取り上げたのかというと、このような有用なツールは本来、従業員数名の企業や個人など、IT専任者がいないような人たちにこそ使ってもらいたいと考えたからです。日本の地方、零細企業に元気になって欲しい。そのためのお手伝いができるならば幸いです。


