Slackが教えてくれた革新
いまや「ビジネスチャット」という言葉は一般化しましたが、その便利さを世に知らしめた最初の立役者はSlackでした。
メールに代わる投稿型のコミュニケーション──これは単なるメッセージ手段の置き換えではなく、仕事の進め方そのものを変える体験でした。
従来のメールでは、宛先や件名を整えて「いつもお世話になっております」で始めるのが常識。そこには儀式的な手間や心理的な壁があり、即時性とは無縁でした。Slackが登場したとき、多くの人は衝撃を受けたはずです。「あ、これでいいんだ」と。要件だけを投げ、相手が手が空いたらすぐ返してくれる。しかもやり取りの履歴は残り、プロジェクトごとのチャンネルに集約される。メールより気軽で、電話より負担が少ない──これがSlackがもたらした革新でした。
そして2025年のいま、Slackは再びCMで「メールではなく投稿を!」と声高に訴えています。AIや新機能を差し置いてまで、あえて基本の価値を推す。これはつまり、未だに「チャットがメールより便利だ」という当たり前が浸透していない証拠でもあります。Slack自身が改めて旗を振っているのです。
この状況は、逆説的に示しています。
「ビジネスチャットの真価は、まだまだ広がる余地がある」。
そして同時に、「その便利さを有料サービスだけで享受する必要はない」。
ここで浮上するのが、オープンソースで自前運用できる Nextcloud です。
有料ビジネスチャットの現在地
Slackが火をつけた「ビジネスチャット革命」は、その後、群雄割拠の時代を経て大手プラットフォームに集約されました。便利さは誰もが認めるところですが、2025年の今、中小零細にとっては「コスト負担」という壁がかえって大きくなっています。
Slack
Slackは依然として象徴的な存在です。APIやBot連携、外部サービスとの統合は群を抜いており、エンジニアやIT企業には欠かせないツールになりました。しかし、かつてのように無料で自由に使える範囲は狭まり、有料プランへの誘導が強まっています。履歴保存や大規模な外部連携をしようとすれば、1ユーザーごとに課金され、組織が大きくなくても月額負担はずっしりのしかかります。
Microsoft Teams
Microsoft 365に統合されたTeamsは、Slackの最大のライバルにして実質的な勝者といえるでしょう。WordやExcelとのシームレス連携、組織アカウントへの自動統合は魅力的です。大企業では「Microsoft 365を契約しているから自然とTeams」というケースがほとんどです。ただし、中小零細では「Office 365を契約していないと使いにくい」「そこまでのライセンス料は払えない」という壁があります。
Chatwork
国内市場で一定の存在感を示してきたのがChatworkです。シンプルさと分かりやすさで零細企業に支持されてきました。しかし2021年以降、無料プランの利用制限が強化され、実用的に運用するには結局有料プランが必須となりました。従業員10人+外注20人といった小さな規模でも、月額数千円から数万円に膨らんでしまいます。
Zoom / Google Meet
リモート会議の定番として普及しましたが、チャット機能はあくまで補助的。メッセージ履歴の整理やチャンネル化など、日常的な情報共有には不向きです。「会議に強い」=「常用のビジネスチャットにはならない」というのが現実です。
こうして見ると、ビジネスチャットは「確かに便利」ですが、本格的に使えば必ず課金がのしかかるというのが2025年の姿です。大企業には当然のコストでも、中小零細にとっては負担感が大きく、導入をためらう要因となっています。
この「便利だけど高い」「欲しいけど続けにくい」というギャップこそ、Nextcloudが切り込む余地なのです。
Nextcloudが提供する“無料の選択肢”
ここで登場するのが Nextcloud です。本来はDropboxやGoogle Driveのような「クラウドストレージ」を自前で構築するためのオープンソースソフトウェアですが、その真価はストレージにとどまりません。
TalkアプリでSlack的世界が広がる
Nextcloudは拡張モジュールの仕組みを持っており、「Talk」というアプリを導入するだけで、ビジネスチャット機能が一気に立ち上がります。
- プロジェクトごとにチャットルームを作成
- メッセージ履歴の保存
- ファイル共有とチャットが一体化
- 必要に応じて音声通話やビデオ会議もそのまま開始
つまり、SlackやTeamsで日常的に使う機能の多くを「無料で」「自前のサーバー上で」利用できるのです。
ユーザー数制限なし
有料SaaSと決定的に異なるのは、ユーザー数に課金されない点です。外注メンバーや短期のパートナーを何人追加しても追加料金はゼロ。これが中小零細にとっては破壊力のあるメリットです。
ストレージ容量も自分次第
クラウドストレージの容量は、自分が契約しているサーバーやハードディスク次第。制約はベンダーではなく自分のリソースに依存します。数百GBを自由に割り当てられるのは、自前運用ならではの強みです。
コストの現実感
「とはいえサーバーを新しく立てなければならないのでは?」と考えるかもしれません。しかし多くの零細企業は、すでに会社のホームページ用にレンタルサーバーを契約しています。その環境にNextcloudをインストールすれば月額の費用はゼロ。
「ホームページを持っているなら、実質タダでSlack的な環境を導入できる」──この現実感こそがNextcloudの強みです。
SaaSが「便利だけれどユーザー課金が重い」のに対し、Nextcloudは「自己管理が必要だがコストは限りなくゼロに近い」。まさに 無料の選択肢 として、再び脚光を浴びるべき時期に来ています。
この3年間の情勢変化
Nextcloudが「Slack的なチャットもできる」と注目されたのは3年前。しかしその後の環境変化によって、当時以上にNextcloudの存在価値が高まっています。
SaaSの有料化と無料枠縮小
まず大きな変化は、主要なビジネスチャット/コラボレーションSaaSの料金体系です。
- Slackは履歴保存や外部連携の制約を強化し、有料プランへの誘導を強めた。
- Chatworkは無料利用に厳しい制限を設け、小規模企業にとって使いづらくなった。
- Microsoft TeamsはOffice 365依存が一層強まり、単体での導入は難しくなった。
「無料で便利に使える時代」は確実に終わり、利用規模に応じた課金が避けられなくなったのです。
レンタルサーバーの性能進化
一方、ホスティング環境は大きく進歩しました。
2022年当時は「VPSや自宅サーバーじゃないと快適に動かない」と言われたNextcloudも、今では
- ロリポップやさくらといった安価なレンタルサーバー
- Xserverのような高速環境
で十分実用的に稼働します。SSD標準化とPHP8対応が進んだことで、「ホームページ運営の延長でNextcloudを導入できる」現実味がぐっと増しました。
自社データ主権への関心の高まり
加えて、生成AIの普及やクラウド依存への懸念から、「データを自社で管理したい」という声が強まっているのも2025年ならではの流れです。
- 社外サービスに預けるリスクを嫌う
- 社内外で扱うファイルを外に出したくない
- AI学習に勝手に利用されるのでは、という不安
こうした背景が、「自己責任でもいいから自前で持ちたい」というNextcloud型のアプローチを後押ししています。
3年前は「Slackみたいなことが自前でできるなんて!」という驚きだったNextcloud。
2025年の今は、「有料化が進んだSaaSに疲れた零細企業が、コストを抑えてデータ主権も守れる実用解」として再評価される段階に入ったのです。
“無料”の裏側にある自己責任
Nextcloud最大の魅力は「ユーザー数に縛られず無料で使える」点です。これはSlackやTeamsにはない圧倒的なメリットです。しかし、その自由には必ず「自己責任」という影がついて回ります。
セキュリティを守るのは自分
SaaSであれば、脆弱性の修正やサーバーの監視はベンダーが担ってくれます。Nextcloudでは、アップデートの適用やセキュリティ設定を怠れば、そのまま外部からの侵入リスクになります。
- 定期的な更新
- TLS証明書の更新
- 二要素認証の有効化
これらはすべて利用者側が行うべき基本的なタスクです。
バックアップも自前
クラウドサービスであれば障害時にデータが消えることはほぼありませんが、Nextcloudは自前運用。サーバートラブルや操作ミスがあれば、データを失う可能性があります。バックアップ設計をしていなければ、便利さも一瞬で消えます。
サポートがないという現実
「お金を払っていない」ということは、困ったときにヘルプデスクもありません。頼れるのはコミュニティや自分自身の調査力です。ここは零細企業にとって大きなハードルかもしれません。
とはいえ、これは裏返せば 「自分の自由にできる」という大きな武器 でもあります。
- 外部にデータを渡さなくてよい
- 必要な人数分を自由に追加できる
- ストレージ容量も自分のサーバー次第
つまり、Nextcloudは「安全網を捨ててでも自由を得る」選択肢なのです。
中小零細にとって重要なのは、このバランスを理解すること。すべての責任を背負うのは重いようで、実は「月々の課金から解放される自由」として大きなリターンになる場合も多いのです。
Nextcloudの再評価と今後
Slackが示した「メールに代わる投稿型コミュニケーション」の便利さは、いまや常識となりました。ところが2025年の現在も、Slack自身がCMで改めてその価値を訴えているという事実は、まだまだ普及の余地があることを物語っています。
一方で、SaaS型のビジネスチャットはどれも便利である反面、ユーザー課金によるコスト負担が避けられません。従業員数が少ない中小零細にとっては、月額数千円から数万円が積み重なり、導入に二の足を踏む大きな要因になっています。
その隙間を埋める存在が、Nextcloudです。本来はクラウドストレージとして設計されたこのソフトウェアが、Talkアプリを通じてSlack的なチャットや音声通話を提供する。そしてユーザー数無制限、追加料金ゼロ。しかも「ホームページ用のレンタルサーバーさえあれば実質タダ」で導入できる。この条件は、零細企業や個人事業主にとって極めて現実的な解となります。
もちろん「無料」の裏には「自己責任」という重みが伴います。セキュリティ対策、アップデート、バックアップ──これらを自分で守らなければならない。しかし、それを理解したうえで運用するなら、Nextcloudはコストに縛られず自由度の高い武器になります。
3年前は「Slackみたいなことが自前でできるなんて!」と驚かれたNextcloud。今では「高くなったSaaSに代わり、零細が実用的に使える解」として再評価される段階に入りました。
次回は、具体的にレンタルサーバーでの構築手順を紹介していきます。ロリポップやさくらのような安価な環境でどこまで動くのか、そしてXserverのような本格派環境ならどれほど快適に動かせるのか。
そこからさらに、音声通話をどう活用できるかを別回で掘り下げていきます。
「ビジネスチャットも通話も無料 ─ Nextcloudの2025年の価値再評価」
ここから始まる一連のシリーズは、零細企業やフリーランスにとって、クラウドサービス依存から一歩離れる新しい選択肢を提示していくことになるでしょう。

