- 第1章:RISC-Vの「静かな拡大」──脱ARMの夢と現実
- 第2章:RISC-Vはどこに使われているのか?──“実績ゼロ”の誤解と静かな実装
- 第3章:RISC-Vは“勝ち市場”を奪えるか──次の戦場はAIとデータセンター
- 第4章:RISC-Vは“新たな標準”になれるのか──エコシステムと課題の現在地
- 第5章:RISC-Vが照らす“自由”の未来──教育・研究・個人開発の解放区
- 第6章:RISC-Vが拓く未来──20年後、我々は“何に”乗っているのか?
- 第7章:TRONが見た夢と、RISC-Vが現実にする“あの世界”
- 第8章:RISC-Vの光と影──自由は時に“分断”を生む
- 第9章:未来を切り拓く鍵──RISC-V、その成功の条件
- 終章:そして、我々の選択へ
第1章:RISC-Vの「静かな拡大」──脱ARMの夢と現実
RISC-V──それは、オープンソースの命令セットアーキテクチャ(ISA)という異色の存在でありながら、いま密かに半導体業界の潮流を変えつつある。
その魅力は何よりもライセンス料がゼロという点にある。ARMやx86とは異なり、設計思想そのものが自由。カスタムも再配布も、誰の許可もいらない。
この「自由さ」が意味するものは単なるコスト削減ではない。むしろ、その真価は「支配からの解放」にある。
“脱ARM”を掲げる新興勢力たち
たとえば、SiFive──RISC-Vのリファレンス実装を提供するこの企業は、Google、Qualcomm、Intelといった巨人たちからの投資を受けている。表向きは「多様性のため」と言いつつも、その背景には共通する想いがある。それは、「ARMの支配構造への倦み」だ。
ARMのライセンス体系は高額で複雑、しかも契約内容はブラックボックス。設計の自由度が低く、製品差別化が難しい。そうした不満が静かに積もり、やがて孫正義という“門番”へのアレルギーとなって噴き出す。
中国では国家プロジェクトに
この構図は、特に地政学的な分断が深まる中国で顕著だ。米国による半導体規制を受け、RISC-Vは「国産化の切り札」として神輿に担がれている。
Alibaba傘下のT-Head(平頭哥)を筆頭に、各地でRISC-Vプロセッサの開発が進む。Huaweiも独自SoCに採用を進めているという報道がある。
「支配されないCPU」を持つことが、国家戦略に組み込まれているのだ。
第2章:RISC-Vはどこに使われているのか?──“実績ゼロ”の誤解と静かな実装
「RISC-Vって、どこで使われてるの?」
この問いは多くの技術者や投資家が抱く最初の疑問だろう。
そして「見かけないから、まだ実用段階ではないのでは?」という先入観も根強い。
だが、それは半分正しくて、半分間違っている。
RISC-Vは、いままさに産業の深部に静かに浸透しつつある。表舞台に姿を現さないだけで。
ミドル&ローエンド領域での「量産実績」
まず注目すべきは、マイコン/IoT向けのSoC市場である。
たとえば:
- Espressif ESP32-C3 / ESP32-S3:WiFi+Bluetooth搭載の低価格マイコンとして、ArduinoやIoT開発者に支持されている。中身はRISC-Vコア。
- Allwinner D1 / T-Head XuanTie C906:Linuxを動かすRISC-V搭載チップとして、すでに市販ボードに多数採用。
- GreenWaves GAP9 / Kendryte K210:エッジAI・画像認識など、特化型アプリケーション向け。
どれも「Raspberry Pi」のようなメディア露出はないが、量産・販売はすでに始まっている。
ウェスタンデジタル、NASA、Tesla──舞台裏のRISC-V
大手企業による“裏方”としてのRISC-V導入も見逃せない:
- Western Digital はすでに 20億コア超のRISC-Vチップをストレージコントローラとして出荷済み。
- NASA は次世代宇宙探査機用の耐放射線プロセッサ(HPSC)にRISC-Vを採用。
- Tesla も社内FPGAにおける制御用CPUとして、RISC-Vを一部活用していると見られている(公式非公表)。
要するに、RISC-Vは見えないところですでに動いているのだ。
そしてその多くが、「ARMじゃなくても十分だった場所」から始まっている。
GoogleとIntelの「前のめり」が意味するもの
さらに未来への布石として、Google PixelにRISC-Vを載せる計画が報道された(2024年末頃)。
そして、Intelは「Foundry Services」としてRISC-V SoCの設計/製造受託を開始している。
これはつまり、「脱ARMの量産インフラ」が整い始めたということだ。
ARMが存在感を増したのは、スマホという“勝ち市場”を手に入れたから。
RISC-Vにも、その波が来るかもしれない──いや、来させようとしている勢力が確かに存在する。
第3章:RISC-Vは“勝ち市場”を奪えるか──次の戦場はAIとデータセンター
いま、RISC-Vが確実に浸透しているのはローエンドのマイコン領域である。
だがそこは、利益率が低く、ブランドも立ちにくい消耗戦のフロントだ。
本当に勝負が決まるのは、「勝ち市場」──すなわち:
- データセンター/AIチップ
- スマートフォン/モバイルSoC
- 自動車/インダストリアル制御
- 政府・軍需/制裁回避構造
この戦場にRISC-Vは“挑める”のか?それとも“挑まされて”いるのか?
AIアクセラレータにおける「補助頭脳」としてのRISC-V
近年、AI向けチップでは「メインの演算ユニット(Tensor Coreなど)」に加えて、
制御・DMA・メモリIOなどを担当するサブCPU群が不可欠になっている。
ここでRISC-Vは理想的なポジションを得ている:
- 余分な命令セットがない → 消費電力とダイ面積が小さい
- オープンなので自由に最適化可能 → AI特化命令や高速バスに柔軟対応
- ライセンス料ゼロ → 量産に有利
つまり、AIチップの「脳幹」や「脊髄」の役割をRISC-Vが担い始めている。
Apple Mシリーズの影を追う企業たち
「モバイル+デスクトップ融合」の未来を示した Apple M1〜M4。
これに対抗して、Samsung、Qualcomm、MediaTekなどが独自SoC強化に動いている。
このとき、ARM以外のオプションとしてRISC-Vを採用すれば、
- 「ライセンス縛りからの自由」
- 「カスタム命令による最適化」
- 「地政学的リスクの回避(特に中国勢)」
というカードが手に入る。
実際、中国の Alibaba(平頭哥) や Huawei はRISC-Vを独自SoC開発に本格投入しており、
米国企業も「ARMと距離を置くバックアッププラン」として水面下で検討している。
スマホ市場への道は、政治と経済のアリ地獄
ただし、RISC-VがスマートフォンのメインCPUに採用されるには高いハードルがある。
- Androidの動作要件(→Googleの対応が必須)
- バイナリ互換性とアプリ資産の維持
- GPU/ISPなど周辺IPのエコシステムがARM依存
現状のRISC-V SoCは「Linuxが起動する」レベルにとどまり、
“Snapdragonクラス”の完成度に達するには、数年の開発と巨額の資金が必要だ。
そしてラストフロンティア:軍事・宇宙・国策
RISC-Vは、米中対立の中で「ライセンスに縛られない自主設計CPU」として重宝されている。
- NASAの次世代宇宙機用HPSCは、x86やARMを退けてRISC-Vに決定。
- 中国軍需産業は、ARM依存を断ち切る手段としてRISC-V採用を加速。
- インド、ロシア、中東諸国も、国策として「脱ARM」を進める中でRISC-Vに注目。
もはや、これは単なるアーキテクチャの話ではない。
技術主権を巡る、静かな経済戦争の焦点になっているのだ。
第4章:RISC-Vは“新たな標準”になれるのか──エコシステムと課題の現在地
どれほど優れたアーキテクチャであっても、それだけで「標準」にはなれない。
過去、ItaniumもMIPSもSPARCも、それぞれ時代を築いたが消えていった。
RISC-Vが真のスタンダードを目指すには、以下の“土台”が揃わなければならない:
- 開発ツール群(コンパイラ・デバッガ・SDK)
- OSサポートとソフト資産
- 周辺IPとの統合性(GPU, DSP, セキュリティ)
- 量産ファブとの連携
- 人材とナレッジの蓄積
いま、そのどれもが過渡期であり、また変化期でもある。
開発環境:GCC/LLVMは対応済み、だがUI/IDEはまだ発展途上
RISC-VはGCC・LLVMの両主要コンパイラに正式対応しており、
Linuxカーネルも動作するほどの完成度だ。だが、組み込み開発で重要なIDE環境、
たとえば STM32CubeMX や Keil MDK に匹敵するツールチェインは少ない。
これはつまり、「玄人」には扱えるが、「量産屋」にはまだ難しいという段階を意味する。
ソフト資産:Linuxは動く、Androidは遠い、Windowsは永遠に来ない?
LinuxはRISC-Vへの移植が進んでおり、CLIサーバーレベルなら実用可能。
だが、GUIの最適化や周辺機器ドライバの不足があり、日常用途にはまだ遠い。
Android対応は進んでいるが、Googleの本格サポートが始まるのは 2025年以降の見通し。
そしてWindowsは──おそらく、絶対に来ない。Microsoftはx86とARMに注力しており、
RISC-Vを「民間デバイス向け」として見る理由がない。
つまり、「RISC-V PC」の夢は、愛と技術力に満ちた個人プロジェクトの範囲にとどまりそうだ。
商用IPとの統合:GPUやDSPが最大のネック
モダンSoCでは、コアだけでなく周辺IP(画像処理・AI演算・通信)の存在が不可欠。
しかし、RISC-Vに対応するGPUやISP、モデムは数が限られ、性能も低い。
- ImaginationやVivanteが対応を進めるが、まだ発展途上
- 中国勢が自前で統合し始めるが、国際的な調達性に難
- 西側企業はARM依存から脱却しきれない
つまり、「コアだけオープン」では動かないのが現代の半導体事情なのだ。
それでも、未来は確実にやってくる
このような高くて長い坂道にもかかわらず、RISC-Vは着実に進んでいる。
なぜなら、世界が「1社依存」のリスクに本気で気づいたからだ。
- ARMを支配するSoftBank(孫正義)の判断ひとつで変わる契約条件
- x86の牙城に踏み込めない政治的・法的ハードル
- チップ設計における国家戦略の重視(米中だけでなくEU、インド、ロシアも)
このような「プランBが欲しい」世界の流れが、
RISC-Vという“本命なき標準候補”を後押ししている。
第5章:RISC-Vが照らす“自由”の未来──教育・研究・個人開発の解放区
RISC-Vの本質的な価値は、商業的な“脱ARM”文脈にとどまらない。
むしろ、「誰もが設計に手を出せる」という思想が、これまで閉ざされていた世界を開き始めている。
それは──
- ハードウェア設計の“民主化”
- 教育の現場への浸透
- 趣味のマイコン開発への新風
そしてなにより、未来のイノベーターたちの種まきである。
教育分野:RISC-Vは“教材”として理想的
かつて、CPUアーキテクチャを学ぶ授業では「MIPS」や「SPARC」が使われていた。
しかし、ライセンスの壁や更新停止により、「設計できない教材」に成り下がっていたのが現実だ。
そこに現れたRISC-Vは、完全にオープン。
- 命令セットも自由に改変できる
- 教科書もツールも増えてきた
- 実チップに落とし込むFPGA教材も登場
今や、世界中の大学で「ハード設計を“やってみる”」ための標準教材となりつつある。
教授:「この命令セットに命令を追加してみましょう」
学生:「え、マジでやっていいんですか?」
教授:「もちろん、それがRISC-Vです」
──そんなやり取りが、教室のどこかで交わされている。
趣味開発者の楽園:「自作SoC」の時代が来た
RISC-Vは、マニアにとっても夢の素材だ。
かつてのZ80や6502でゲーム機を作っていたように、
今では自分で命令セットを拡張したCPUをFPGAで組み、
そこにOSやBASICを載せて遊ぶ猛者もいる。
- GitHubには100を超える自作RISC-V CPUコアが並び
- QEMUエミュレータで動くソフト資産も増え
- FPGAボード1枚で“世界にひとつのCPU”が完成する
これは、電子工作の本質を思い出させてくれる流れだ。
しかも、将来そのままプロダクトに転用できるという点で、
趣味と産業の垣根すら曖昧になってきている。
研究開発にも新たな光
プロセッサのアーキテクチャを研究するには、
従来、莫大なライセンス料とブラックボックスとの格闘が必要だった。
RISC-Vはそれを壊した。
- AI専用命令セットの研究
- セキュリティ拡張(メモリ保護機構の実験)
- オープンソースDSPとの統合検証
こうした研究が、今や論文ベースではなく実チップベースで進められている。
研究者にとっても、
「理論を現実に落とし込む」ための自由なキャンバスとなったのだ。
第6章:RISC-Vが拓く未来──20年後、我々は“何に”乗っているのか?
2030年代後半──あなたが何気なく手にしている端末には、
もしかすると「SoftBank Inside」ではなく「RISC-V Inside」のシールが貼られているかもしれない。
そう、“RISC-V”という名前すら見えないほど、当たり前になって──。
スマート家電はRISC-Vで“十分すぎる”
RISC-Vの真価は「割り切りの良さ」にある。
例えば──
- 温度センサーの制御チップ
- Wi-Fiルーターのサブプロセッサ
- スマートロックの省電力MCU
こういった極小メモリ×低クロックな環境では、RISC-Vのカスタマイズ性と軽量性が圧倒的に強い。
ARMのような汎用化志向とは逆に、「用途に最適化した最低限」を設計できるのが強みだ。
つまり、未来のIoT機器の“神経系”は、ほぼRISC-Vで塗りつぶされる。
自動車の中にも、RISC-Vが“静かに”動いている
- センサーデータを拾う制御系
- モーターの駆動
- 衝突回避の初動演算
こういったエリアにもRISC-Vは忍び込んでいる。
しかも、それらは別に「高性能」なチップである必要はない。
大量に、確実に、そして安価に動くこと。
この領域では、ライセンス料を支払わず済むRISC-Vが猛烈な勢いで採用されつつある。
ARMは自動車を「攻略しに行った」が、
RISC-Vはいつの間にか「必要な場所にいた」というわけだ。
未来の“個人向けPC”にも…?(おっさんホイホイ)
ちょっと夢物語を許してほしい。
かつて、Z80や68000でOSを書いたマイコン少年たちのように、
2040年の子どもたちが「RISC-VでOS作った」なんて言っている未来が来たら──
胸が熱くならないか?
- GitHubで流通するフルオープンOS
- ハッカブルなゲームマシン
- 個人製作の独自RISC-V SoC
- DIYスマートウォッチに自作OS
そんな世界が「商用ではなく、文化として」成立していたら、
RISC-Vは歴史に残るインフラになった証拠だろう。
そして──RISC-Vが“空白”を埋める未来
現在の半導体界は「インテルvs ARM」「x86 vs Arm64」などの対立構造で語られがちだ。
しかし、RISC-Vは違う。
- 対立ではなく“逃げ道”
- 一極集中の回避手段
- 中国も米国も、大学もベンチャーも“使っている”
つまり、これは国家にも企業にも縛られない“自由な穴埋め”として
静かに広がっていく。
第7章:TRONが見た夢と、RISC-Vが現実にする“あの世界”
1980年代──日本発の野心的なOSプロジェクトがあった。
名を「TRON(The Real-time Operating system Nucleus)」という。
プロジェクト発起人は、東大教授・坂村健氏。
ビジョンは壮大だった。
「すべてのモノにコンピュータが入り、互いに連携する“超分散型社会”をつくる」
今でいうIoT・ユビキタス社会を40年前に本気で設計していたのだ。
TRONの核心、それは「適材適所のマイクロカーネル思想」
- 小型機器向けのμTRON
- 家庭機器用のI-TRON
- 教育端末向けのBTRON
- コンピュータ制御統合のCTRON
つまり、1つのOSであらゆる階層を制御する思想を持っていた。
AppleやMicrosoftが「PC用OS」を売っていた時代に、
TRONは「OSを空気のように配布する」という、時代を30年先取りした理想を掲げた。
TRONの夢を、RISC-Vが“遠回りで”実現しようとしている
TRONは──敗れた。
- 政治的圧力(某国からの強い指導)
- 経済力の差
- ハードウェアとの分離が難しかった
- Windowsの爆発的普及
しかし、TRONが追い求めた「すべてにコンピュータを」の世界は、
いま、RISC-Vの手で静かに再現され始めている。
- 自由にカスタム可能なISA
- 電子レンジから人工衛星まで共通基盤にできる柔軟性
- 教育から軍事まで“持ち出せる”フルオープン性
皮肉にも、日本発の思想が、グローバルの手で現実になりつつある。
TRONの“精神”を知る者にとって、RISC-Vの拡がりは感慨深い
もしかすると──
TRONは、設計も実装も洗練されすぎていたのかもしれない。
RISC-Vはもっと“荒削り”だ。
だがそのぶん、皆が勝手に育てている。
- 「手触り感」のあるアーキテクチャ
- 「自分のチップ」を設計できる快感
- 「OSSコミュニティでの連帯感」
TRONの持っていた日本的で有機的な理想郷が、
国境も言語も越えて──“リナシメント”しているような不思議な感覚がある。
かつて夢に終わったTRONの構想。
それを実現するのは、案外“Made in Japan”じゃなくてもいいのかもしれない。
- 夢を見た者
- 技術を継ぐ者
- 現実を動かす者
RISC-Vはそのすべてを内包する“土壌”となりつつある。
そしてTRONは──その根にあった水脈だったのかもしれない。
第8章:RISC-Vの光と影──自由は時に“分断”を生む
RISC-Vは「すべてを開いた」ことで世界中の開発者を惹きつけた。
だが──開きすぎた扉の向こうに、制御不能なカオスが待っているかもしれない。
オープンだからこその“断片化リスク”
RISC-Vは「仕様書さえあれば誰でも作れる」アーキテクチャ。
だが裏を返せば──誰でも“バラバラに”作ってしまう可能性がある。
- A社のRISC-VはB社のソフトが動かない
- 教育用チップは産業用に転用できない
- エコシステムが“枝葉”ばかりで“幹”が育たない
自由すぎる世界は、標準化の意志がなければ分裂の危機に陥る。
「選択肢が多すぎて、逆に混乱を招く」
──これは、Linuxが何年もかけて乗り越えた課題でもある。
覇権を狙うプレイヤー同士の“綱引き”
RISC-V Internationalは中立性を保っているが、
その周辺では覇権を狙う企業たちのせめぎ合いが激しさを増している。
- 中国:国家戦略としてRISC-Vを推進し、独自拡張を加え始めている
- 米国:NVIDIAやIntelが注目するも、あくまで“戦略カード”扱い
- 欧州:RISC-Vの中立性を支持するも、リスク回避で慎重
各国・各社が自分仕様を作れば、ARM以上に不統一な地雷原になる可能性もある。
「自由」は時に“連帯の難しさ”を招く
RISC-Vを愛する開発者たちは多い。
だがその多くが──
- 大企業の後押しがない
- 商用パートナーが見つからない
- オープン設計の維持に疲弊している
「コミュニティの熱量」が支えてきたRISC-Vだが、
それだけで“持続可能”と言えるのか。
そしてARM陣営の逆襲──RISC-V潰しの動きも
2024年末、英国ARMが「RISC-V対策チーム」を結成したという噂もある。
- 無償ライセンス枠の拡大
- RISC-Vに似せた低消費電力設計
- 教育機関への“懐柔策”
「RISC-Vは素晴らしいが、リスクがある」
そんな風評を意図的に流し、ARMの安定感を強調する動きも見られる。
光が強いほど、影は濃くなる
RISC-Vは今、まさに岐路にある。
- “秩序なき開放”の先に待つのは、進化か混乱か。
- “善意の分散”が、“悪意ある改変”に負けることはないか。
- “皆のもの”であるはずが、“誰のものでもない”という無責任に変わらないか。
「オープン=正義」ではない。
その言葉を履き違えれば、自由の名のもとに自己崩壊もあり得る。
第9章:未来を切り拓く鍵──RISC-V、その成功の条件
RISC-Vは、自由という名の荒野を駆け抜けてきた。
だが未来は“自由なだけ”では拓けない。
ここからは、実用と秩序の両立を目指す“成熟のフェーズ”だ。
鍵①:「標準化」と「互換性」の確保
最大の課題は仕様の乱立と断片化。
これに対し、RISC-V International は次の一手を打ち始めている。
- コア仕様に“プロファイル制度”を導入(例:Embedded / Application 用)
- 一部の拡張機能を「準標準」として認定(例:Vector拡張)
- 開発者向けに“互換性バッジ”制度を導入予定
「誰が作っても、RISC-Vとして動く」
この信頼感が広がれば、ARMの牙城にも風穴が開く。
鍵②:キラーアプリ・成功事例の創出
「で、RISC-Vって何に使えるの?」
──この問いに、胸を張って答えられるプロジェクトが必要だ。
現在、注目を集めている分野:
- ウェアラブル・IoT:超低電力マイコンでRISC-Vが躍進中
- 教育・研究:MIT・東大などがRISC-V実装演習に本格採用
- 宇宙産業:NASA・ESAが採用検討(放射線耐性に優れる設計)
さらに──日本でも:
- 「スパコン富岳」開発チームの一部がRISC-V採用を研究
- 自治体向けIoTインフラで採用例が報告(某県庁スマート化プロジェクト)
鍵③:「商用サポート体制」の確立
オープンソースを“使いたくても使えない”企業は多い。
理由はただ一つ──誰も責任を取ってくれないから。
それを解消するプレイヤーたちが台頭してきた:
- SiFive:RISC-Vコアの商用実装を提供、Intelが出資
- Andes Technology:台湾発、量産実績豊富なIPベンダー
- Ventana・Codasip:高性能RISC-V SoCの開発で存在感
「オープンだけどサポートつき」──この仕組みができて初めて、企業は本気で動き出す。
鍵④:グローバル規模の「政治力」
産業とは技術だけで動いているわけではない。
法規制・貿易・安全保障など、“見えない要因”が技術の命運を握っている。
RISC-Vが中国政府と過度に結びついた印象を持たれれば、
米欧の規制対象となる可能性すらある。
- 米国:2024年に「RISC-V Export Control」草案を提出したとの報道
- 中国:RISC-V陣営に資本注入し、事実上の主導権確保を狙う
- 欧州:中立を貫こうとするが、政治的圧力に揺れ動く
技術とは、しばしば“国境を超えた外交”そのもの。
終章:そして、我々の選択へ
RISC-Vはまだ完成していない。
それは欠点ではない。
未完成だからこそ、参加できる余地がある。
- 自分の設計がチップになる
- 自分の夢がプロセッサを動かす
- その「可能性」こそが、RISC-Vの本質だ
ARMでもない。x86でもない。
第3の波が、静かに、しかし確実に、世界を変えつつある。
「すべての開発者に自由を。」
──それは、1980年代にトロンが夢見た世界だった。
──そして今、RISC-Vがそれを“実装”しようとしている。

