「Excelマクロが止まるらしい」「VBSが廃止されるらしい」
そんな話を、まだ“遠い未来のITニュース”だと思っていないだろうか。
だが現実には、Microsoftの製品群ではすでに
「サポート終了」「非推奨」「段階的廃止」が静かに、しかし確実に進んでいる。
そして2026年前後は、それらが実務に直撃する節目になる可能性が高い。
問題はひとつだけだ。
ほとんどの現場は、何も準備していない。
これは「いつか困る話」ではない。
“ある日突然、業務が止まる話”である。
表に出ない本命リスクは、Excelの外にある
Excelマクロ停止やVBS廃止は、たしかに分かりやすい。
だが、本当に危険なのは、もっと地味で、もっと広範囲に影響する領域だ。
たとえば、次のようなものが同時進行で進んでいる。
- Edge の IE モード依存環境の寿命問題
- Microsoft 365 / SharePoint の旧API・旧機能の段階的廃止
- Azure AD(Entra ID)におけるレガシー認証プロトコルの締め出し
- Windows Server 2012 / R2 系のサポート終了後の放置サーバー
- .NET Framework 依存アプリの“静かな孤立”
どれも共通点はひとつ。
「すでに公式には“終わる”と宣言されているが、現場は動いていない」
シナリオ1:ある朝、社内システムにログインできなくなる
Azure AD(現 Entra ID)では、古い認証方式の段階的廃止が進んでいる。
これはセキュリティ的には正しい判断だ。だが現場目線ではこうなる。
- バッチ処理が認証エラーで停止
- RPAがログインできず全滅
- 古い業務ツールがクラウド連携不能
- メール送信(SMTP認証)が突然失敗し始める
「昨日まで動いていたのに、今日は全部エラー」
このタイプの障害は、復旧より“原因特定”に時間がかかる。
しかも根本原因は「数年前から告知されていた仕様変更」だった、というオチが付く。
シナリオ2:IEモード前提の社内Webが、ついに息を引き取る
多くの企業はいまだに、
- ActiveX依存
- 古いJavaScript
- IE前提の画面設計
を抱えた社内Webシステムを使い続けている。
EdgeのIEモードは、言ってしまえば延命措置にすぎない。
この延命装置が外された瞬間、何が起きるか。
- 受発注システムが開かない
- 勤怠・申請系が操作不能
- 社内ツールが一斉に“白画面”
これは「移行が面倒だから後回し」にしてきたツケが、
一括請求される瞬間でもある。
シナリオ3:Windows Server 2012が“時限爆弾”になる
サポート切れOSを使い続ける、というのは単なるセキュリティリスクではない。
- 周辺ソフトが対応を打ち切る
- バックアップ製品が動かなくなる
- 新しい管理ツールが接続できなくなる
- そして障害時、誰もサポートしてくれない
特に中小企業では、
「動いているからそのまま」
という理由で、業務の心臓部が10年以上前のOSのまま、というケースが珍しくない。
これはもう、事故待ちの構成と呼んでいい。
シナリオ4:.NET Framework依存アプリが“静かに詰む”
VB.NET や .NET Framework ベースで作られた業務ツールは、
今も大量に現場で使われている。
問題は、Microsoftの主戦場がすでに
.NET(Core → .NET 6/7/8…)
に完全に移っていることだ。
- 新しいライブラリは対応しない
- セキュリティ更新の優先度は下がる
- 開発環境の維持コストだけが増える
気づいた時には、
「直したいけど、もう誰も触れないコード」
になっている。
これは Accessゾンビプログラム と同じ運命を辿る。
共通するのは「技術の問題」ではなく「経営の問題」
ここまで挙げた話は、どれも技術的には“想定内”だ。
Microsoftはちゃんと事前に告知し、移行手段も用意している。
それでも事故が起きる理由はシンプルだ。
- 現場は忙しい
- 予算は後回しにされる
- 「今すぐ困っていない」ものは無視される
その結果、
問題が“技術的”に顕在化した時には、すでに“経営課題”になっている
という形で爆発する。
VBScript廃止は「予定された未来」である
Microsoft はすでに、VBScript を段階的に廃止する方針を公式に表明している。
これは噂話でも観測気球でもなく、セキュリティ上の理由に基づく明確なロードマップだ。
| フェーズ | 時期(目安) | 状態 | 現場への影響 |
| フェーズ 1 | 2024年後半〜 | FOD(オンデマンド機能)化 | Windows 11 24H2以降、標準搭載ですが「削除可能なオプション」扱いになります。 |
| フェーズ 2 | 2027年頃 | 既定で無効 | OSをインストールした直後はVBSが動きません。設定から手動で有効化しない限り、.vbsファイルは実行不可となります。 |
| フェーズ 3 | 未定 | 完全削除 | vbscript.dll 自体がOSから消えます。手動での有効化もできなくなります。 |
公式ドキュメントによれば、VBScript は Windows 上で既定無効化が進められ、最終的には機能自体が削除される方向で整理されている。
つまり、これは「使わないほうがいい技術」ではなく、**「使い続けるという選択肢が消える技術」**になりつつある。
重要なのは、この変更が次のような形で現場に影響する点だ。
- VBScript に依存したログオンスクリプトや自動処理が動かなくなる
- 古い業務ツールのインストーラや初期設定処理が失敗する
- Excel や Office 周辺の補助スクリプトが実行不能になる
- 「一部の端末だけ動かない」といった、切り分けの難しい障害が発生する
しかも厄介なのは、これが 「ある日まとめて止まる」タイプの変更ではない ことだ。
Windows の更新やポリシー変更をきっかけに、環境ごと・タイミングごとに挙動が変わり、
現場から見ると「なぜか一部だけ壊れた」という形で顕在化しやすい。
これは事故ではない。
仕様変更として“計画的に終わらされる”技術的負債の清算である。
Microsoft が VBScript を廃止する理由は明確だ。
古いスクリプトエンジンは攻撃者に悪用されやすく、セキュリティリスクの温床になりやすい。
クラウドとゼロトラストを前提とする現在の戦略において、レガシーなスクリプト実行環境は「守る対象」ではなく「排除すべき対象」になっている。
つまり、ここで問われているのは
いつか置き換えるかどうか
ではなく、
止められる前に置き換えを終えているかどうか
という話だ。
VBScript の廃止は、単体でも十分に痛い変更だが、
本当に危険なのは、これが
- Excel マクロの制限強化
- レガシー認証方式の排除
- 古い .NET / OS / ブラウザ依存の整理
と 同時進行で進んでいる という点にある。
ひとつひとつは「セキュリティ向上のための正しい変更」だ。
だが、それらが重なったとき、現場では「複合的に動かなくなるシステム」が量産される。
VBScript 廃止は、その“静かな崩壊”の中でも、
もっとも分かりやすく、もっとも無視されやすい前兆のひとつに過ぎない。
2026年問題の本質は「静かな複合崩壊」
ExcelマクロやVBS廃止は、分かりやすい導火線にすぎない。
本当のリスクは、
- 認証
- OS
- フレームワーク
- ブラウザ
- クラウドAPI
これらが同時多発的に“寿命”を迎えることにある。
ひとつひとつは小さな変更に見える。
だが重なると、業務システムは普通に“耐えられない”。
結論:これは「いつかの話」ではない
2026年は、単なる区切りの年ではない。
「放置してきた企業」と「手を打った企業」の差が、はっきり可視化される年になる。
止まるのは、サーバーではない。
業務そのものだ。
そして止まってから動くのは、いつの時代も一番コストが高い。
いま取るべき行動
- どのシステムが
- どのOS
- どの認証方式
- どのランタイム
- どのブラウザ前提
で動いているか、棚卸しする
- Microsoftの公式ロードマップと突き合わせる
- 「3年後も動く前提でいいか?」を一つずつ潰す
これができない組織は、
2026年に“理由の分からない障害”と戦うことになる。
参考:公式情報・ロードマップ
- Microsoft 製品ライフサイクル検索(公式)
https://learn.microsoft.com/ja-jp/lifecycle/products/ - 2026年にサポート終了予定の製品一覧(公式)
https://learn.microsoft.com/en-us/lifecycle/end-of-support/end-of-support-2026 - Exchange Online における Basic 認証廃止(公式)
https://learn.microsoft.com/en-us/exchange/clients-and-mobile-in-exchange-online/deprecation-of-basic-authentication-exchange-online - Microsoft 365 機能廃止・変更予定タイムライン(公式通知ベースのまとめ)
https://github.com/admindroid-community/Microsoft365-Upcoming-Deprecations-and-Changes/blob/main/Microsoft%20365-%20Upcoming%20Changes%20and%20End-of-Support%20Milestones.md




