はじめに
ChatGPT に、翻訳専用ページが静かに追加された。
告知はなく、公式ブログの更新もない。引用できるのはサービスページのみだ。
それでも、少し触れば分かる。
これは偶然の機能追加ではない。明確に Google 翻訳を意識したプロダクトだ。
本記事では、前回の検証記事
「翻訳AIは、どこから『翻訳』をやめるのか── TranslateGemma と LFM2.6B の比較検証」
で使用した 同一の政治文書 を再び用い、次の3者を並べて確認する。
- TranslateGemma(ローカルモデル)
- Google 翻訳
- ChatGPT Translate
目的は精度比較ではない。
翻訳AIが、どこまでを翻訳とし、どこからを編集とみなしているかを観察する。
検証条件
- 原文:前回記事と同一(ホワイトハウス公式発表文)
- ジャンル:政治・政策文書
- 評価観点:
- 固有名詞の扱い
- 政策名の認識
- 文脈補完・説明の有無
- 日本語側での編集介入
原文全文は前回記事を参照されたい。
各翻訳結果
※以下、訳文は比較用にそのまま掲載する。
(内容評価や思想的判断は行わない)
TranslateGemma の翻訳結果
大統領トランプ、医療費削減と国民への直接的な資金提供を目的とした偉大な医療計画を発表
ホワイトハウス 2026年1月15日
ドナルド・J・トランプ大統領の偉大な医療計画は、処方箋薬の価格を下げること、保険料を削減すること、大手保険会社に責任を負わせること、そしてアメリカの医療システムにおける価格の透明性を最大化することを目的とした包括的な医療イニシアチブです。
この計画は、国民に直接資金を提供し、保険会社、製薬会社、特殊な利益団体ではなく、国民に資金を提供します。偉大な医療計画は、彼の最初の任期での成功をさらに発展させ、競争を促進し、無駄な支出を削減し、消費者をコントロールに戻します。
Google 翻訳の翻訳結果
トランプ大統領、医療費削減と国民への直接給付を目的とした「グレート・ヘルスケア・プラン」を発表 ホワイトハウス 2026年1月15日 ドナルド・J・トランプ大統領の「グレート・ヘルスケア・プラン」は、処方薬価格の大幅引き下げ、保険料の引き下げ、大手保険会社の責任追及、そしてアメリカの医療制度における価格の透明性の最大化を目指す、包括的な医療政策です。 この計画は、保険会社、大手製薬会社、そして特別利益団体ではなく、アメリカ国民に直接給付金を支給します。大統領の公約通り、業界リーダーの利益よりも患者を優先します。「グレート・ヘルスケア・プラン」はまた、競争の促進、無駄な支出の削減、そして消費者主導の医療保険制度の確立といった、トランプ大統領の最初の任期における成果を基盤としています。
ChatGPT Translate の翻訳結果
トランプ大統領、医療費を引き下げ、国民に直接資金を届ける「グレート・ヘルスケア・プラン」を発表
ホワイトハウス2026年1月15日
ドナルド・J・トランプ大統領の「グレート・ヘルスケア・プラン」は、処方薬価格を大幅に引き下げ、保険料を削減し、大手保険会社に責任を負わせ、米国の医療制度における価格の透明性を最大化する包括的な医療改革構想です。
この計画は、保険会社や大手製薬会社、特別利益団体ではなく、米国民に直接お金を届けるものであり、産業界の指導者たちの利益よりも患者を優先する――彼が約束した通りです。「グレート・ヘルスケア・プラン」はまた、競争を促進し、無駄な支出を排除し、消費者に主導権を取り戻させることで、第1期政権での成果をさらに発展させるものです。
固有名詞処理に現れた差
まず確認しておきたい事実がある。
ChatGPT Translate と Google 翻訳は、いずれも
「グレート・ヘルスケア・プラン」を固有名詞として処理している。
カギ括弧の有無という点で、両者に差はない。
一方、TranslateGemma はこれを
「偉大な医療計画」と一般名詞として訳している。
これは誤訳ではない。
だが、この差は重要だ。
ここで問われているのは語彙力ではなく、
文書を「政策名の発表」と認識しているかどうかだ。
TranslateGemma が一般名詞に落ちる理由
TranslateGemma の挙動は、一貫している。
- Great → 偉大な
- Plan → 計画
という、意味に忠実な翻訳。
ローカルモデルとしては極めて誠実で、安全側の判断だ。
だがその結果、政策名という文書上の地位が失われる。
これは脚色ではない。
しかし、原文が持つ政治的・制度的な「重み」は減衰する。
Google 翻訳と ChatGPT Translate の違い
Google 翻訳と ChatGPT Translate は、見た目の完成度が近い。
どちらも固有名詞を保持し、政策文書として自然に読める。
ただし、性格は異なる。
Google 翻訳は、日本語読者向けに一段整形する。
- 行間を埋める
- 文意を説明的に補完する
- 新聞記事に近い文体になる
一方、ChatGPT Translate は踏み込まない。
- 原文構造を維持
- 評価を足さない
- 読みにくくなっても意味の形を崩さない
これは優劣ではない。
用途の違いだ。
翻訳と編集の境界線(再確認)
前回記事で述べた通り、
翻訳AIは中立な変換装置ではない。
翻訳の過程では、
- 整理
- 要約
- 安全化
が混入し得る。
今回の比較で見えたのは、
ChatGPT Translate が 意図的にその混入を抑えにいっているという点だ。
翻訳を「思考」から切り離し、
一次資料を壊さずに移送する道具として設計されている。
なぜ ChatGPT Translate は静かに公開されたのか
このプロダクトに派手な発表がなかった理由も、ここにある。
翻訳は、
契約書、政府発表、報道、法務に直結する。
ここで余計な期待や誤解を招く告知は不要だ。
使えば分かる
比較すれば分かる
その前提で、道具だけを置いた。
ChatGPT Translate がターゲットとしているのは、
「AI翻訳に夢を見る層」ではない。
翻訳を事故なく使いたい層だ。
まとめ
今回の比較を、事実だけで整理する。
- TranslateGemma
意味に忠実なローカル翻訳 - Google 翻訳
流通させるための翻訳 - ChatGPT Translate
原文を壊さない翻訳
翻訳AIの進化は、
賢くなることではない。
余計なことをしなくなることだ。
ChatGPT Translate は、その方向に一歩踏み出した。


