導入|性能競争の外側で起きていること
プロセスノード、EDA、ISAライセンス、ファウンドリ、輸出規制。
2026年時点で中国系シリコンを語るなら、これらを前提条件として受け入れる必要がある。
重要なのは、中国の半導体戦略が「最先端性能」を主戦場にしていないという事実だ。
それは敗北宣言ではない。むしろ、制約条件を前提に最適化された、極めて工学的な選択である。
本稿では、Arm / x86 / RISC-V という3つのISAを軸に、現在進行形の中華シリコンの配置図を整理する。
ベンチマークもロードマップ予想も扱わない。
扱うのは「止められない構造」だけだ。
Arm|中国にとっての主力だが、主権ではない
Arm系SoCは、現在の中国シリコン産業における最大の稼ぎ頭である。
スマートフォン、IoT、車載、家電、ウェアラブル。量産可能で、エコシステムが成熟しており、市場投入までの不確実性が低い。
だがArmを語る際に見るべきは、CPUコア性能ではない。
- Armv8 / Armv9 ISA
- Cortexコア、あるいは準カスタム設計
- Mali GPU
- ISP / NPU / モデムIP
- Synopsys / Cadence に依存したEDAフロー
Arm SoCとは、ISA単体ではなく「西側IPスタックの集合体」である。
中国企業はこの現実を理解している。
だからこそ、Armは「今を支える基盤」ではあっても、「将来の主権」を完全に委ねる対象ではない。
この領域で象徴的なのが Unisoc だ。
Unisocはハイエンドで勝負しない。成熟ノード・既存IP・歩留まり最優先の設計で、量産と価格を成立させる。
Armという制約条件の中で、最も現実的な最適解を選び続けている。
x86|性能ではなく互換性のためのISA
中国におけるx86は、技術的な野心の象徴ではない。
互換性維持のためのインフラである。
代表例は Zhaoxin と Hygon だ。
x86の価値は、命令セットそのものではない。
- 膨大なマイクロコード資産
- 命令デコード段の複雑性
- Windows ABI
- ドライバモデル
- BIOS / UEFI / ACPI
x86とは、過去40年分の互換性負債を含んだ実行環境そのものだ。
中国がx86を捨てない理由は単純だ。
行政、金融、産業システムにおいて、Windowsベースの既存資産を即座に置き換える現実的手段が存在しない。
x86は未来を切り拓く剣ではない。
しかし、過去を切り捨てずに済ませるための盾として、依然として必要とされている。
RISC-V|性能競争ではなく設計主権の選択
RISC-Vに対して「Armの代替になるか」という問いを投げるのは、問いそのものが間違っている。
- RV64GC
- ベクタ拡張
- カスタム命令
- Linux mainline への取り込み状況
- GCC / LLVM / toolchain 成熟度
現時点で、RISC-Vはスマートフォン向けSoCの主役になれる段階にはない。
性能でも、電力効率でも、エコシステムでも、Armが優位だ。
それでも中国がRISC-Vに注力する理由は明確だ。
RISC-Vは唯一、ISAレベルで主権を持てる選択肢だからだ。
制裁しにくく、ライセンスフリーで、拡張可能。
これは技術的メリットというより、戦略的自由度の問題である。
RISC-Vは革命ではない。
時間のかかる、後戻りできない選択だ。
Unisocという象徴|SoCではなく配置の問題
Unisocを「ローエンドSoCメーカー」として片付けるのは簡単だ。
だが実態は違う。
- LTE中心のモデム構成
- IoT / ウェアラブル / フィーチャーフォン
- 成熟プロセスノード
- BOM最適化
- 量産前提の設計哲学
UnisocはSoCメーカーというより、半導体流通を成立させるための潤滑剤に近い。
性能は語られない。だが消えない。
むしろ、価格と供給の安定性という観点では、極めて戦略的な位置にいる。
中国の半導体戦略は、「上を獲りに行かない」ことで「下を独占」する構造を作りつつある。
終章|半導体戦略とは何か
半導体戦略は、GHzやTOPSの競争ではない。
nmの数字を並べる話でもない。
それは、
- どのISAを
- どの用途に
- どの制約下で
- どれだけ長く供給し続けられるか
という、構造設計の問題だ。
中国のシリコンは、最先端ではない。
だが、止まらない。
気づいた時には、そのチップはすでに
ポケットの中、家電の裏、インフラの末端で動いている。
それが2026年の「中華シリコン」の現在地だ。


