AIに翻訳させないための翻訳プロンプト―― 日英業務文書で事故を起こさないための工夫

AIに翻訳させないための翻訳プロンプト―― 日英業務文書で事故を起こさないための実証 HowTo
翻訳させないための翻訳プロンプト―― 日英業務文書で事故を起こさないための実証

翻訳AIは便利だが、業務文書においては「便利すぎる」ことが事故の原因になる。
本稿では、翻訳を完成させず、判断を代行させず、
意味構造と「読まれ方」だけを可視化する ためのプレプロンプト設計と、
その実証例を示す。

対象は日英業務文書に限る。
汎用的な翻訳用途ではなく、責任を負う立場の人間のための道具としてのAIの使い方を扱う。

  1. 序章|翻訳アプリを作らない翻訳の話
  2. 第1章|翻訳の記事が、だいたいズレて見える理由
    1. 英語を「読む」翻訳は、もう解決している
    2. 地獄は、日英にある
    3. 多くの翻訳記事が避けていること
    4. だが、現場で本当に困っているのは、そこじゃない
    5. ここで、翻訳の定義を一度捨てる
  3. 第2章|翻訳を完成させないほうが、安全な理由
    1. 完成した瞬間、責任が曖昧になる
    2. 自動翻訳が怖い理由は、精度ではない
    3. 翻訳を完成させる=判断を委ねる、ということ
    4. 途中で止まれる翻訳、という選択
    5. これは後退ではない
    6. 翻訳を「道具」から「場」に戻す
  4. 第3章|ワークフローを使わない翻訳という発想
    1. ワークフローが必要になる瞬間
    2. IF/ELSE が書けないものを、無理に書くと壊れる
    3. LLMは、分岐を書かせる対象じゃない
    4. 「ワークフローを使わないワークフロー」
    5. チャットボットで十分な理由
    6. これは近道ではない
  5. 第4章|日英で「ただのチャットボット」が一番強くなる瞬間
    1. 日英では、翻訳対象が「文章」じゃない
    2. 日英で本当に困る瞬間
    3. だから必要なのは「英文の正解」ではない
    4. チャットボットは、ここでだけ本気を出す
    5. Three Step と似て非なるもの
    6. 日英翻訳が「魔境」になる理由
    7. 翻訳という名の思考補助装置
  6. 第5章|一枚のプロンプトで足りてしまう理由
    1. プロンプトは「能力を引き出す道具」ではない
    2. LLMが一番事故る瞬間
    3. 一枚のプロンプトに入っているのは「禁止事項」
    4. IF/ELSE が不要になる瞬間
    5. STOP / NEXT は命令じゃない
    6. 厚いプロンプトは「設計書」だ
      1. ”翻訳を補助する”プレプロンプト
    7. 結局、何が再発見されたのか
  7. 第6章|「最低限の投資」で届く場所
    1. ここで言う「投資」は、システム導入ではない
    2. なぜ「最低限」でいいのか
    3. 中小零細が最初から諦めてきた理由
    4. 相談窓口から始まるAI活用
    5. 海外部門がなくても、意味がある
    6. これは経済政策の話ではない
  8. 終章|翻訳アプリを作らなかった、その先で
    1. 自動化しなかったのは、できないからではない
    2. これは「使いこなし」の話ではない
    3. フォン・ノイマン型の外側に出た、という感覚
    4. 翻訳は、入口にすぎない
    5. 最後に
  9. 補章:実証例(gpt-oss 実挙動)
    1. 入力文(日本語・業務文)
    2. 出力例(gpt-oss)
    3. 補助解説
      1. 2. 強く読まれうる箇所(指摘)
      2. 3. 意味を変えずにトーンだけを変えた例
      3. 4. 読まれ方の差(最小整理)
      4. 注記

序章|翻訳アプリを作らない翻訳の話

翻訳アプリの記事は、もう十分に出揃っている。

Difyを使った翻訳、Three Step Translator、
直訳して、指摘して、整えて──
確かに、やっていることは間違っていない。
精度も悪くないし、見た目もそれらしい。

だが、どうにも腑に落ちない。

それらの記事をいくつか読んだあと、
「で、これは誰のための翻訳なんだ?」
という疑問だけが残る。

自然な日本語。
業務でそのまま使える文章。
そのまま社内に回せる成果物。

便利ではある。
だが、その便利さの裏に、
どこか別の欲望が透けて見える。

──翻訳した結果を、
自分では読まずに、
そのまま横流ししたい、という欲望だ。

もちろん、そういう用途が悪いわけではない。
英語が日常的に飛び交う部署もあるし、
海外とのやり取りを自動化したい現場もある。

ただ、それは翻訳の一部であって、
翻訳の本質ではない。

翻訳が本当に厄介になるのは、
英語を「読む」時ではない。
英語を「書く」必要に迫られた時だ。

多くの日本人は、
英語の記事を読むことはできる。
意味も、だいたい取れる。

だが、
自分の考えを英語で書こうとした瞬間、
思考は止まる。

正しいかどうか分からない。
失礼じゃないか不安になる。
そもそも、どの表現を選べばいいのか分からない。

ここには、
自動化も、ワークフローも、
Three Step も効かない。

必要なのは、
「自然な英語」を量産する仕組みではない。
考えながら英語にしていく場所だ。

この記事は、
翻訳アプリを作る話ではない。

Difyを使って、
便利な翻訳ツールを量産する話でもない。

翻訳を、
成果物ではなく、
思考の途中経過として扱うための話だ。

そして、
そのために必要なのは、
複雑なワークフローでも、
高度な分岐でもない。

ただのチャットボットと、
少し厚めのプロンプト。
それだけで足りる、という話でもある。

翻訳を自動化しない。
完成させない。
横流ししない。

その代わり、
翻訳を「考えるために使う」。

ここから先は、
その話をする。

第1章|翻訳の記事が、だいたいズレて見える理由

翻訳に関する記事をいくつか読んでいくと、
ある共通点に気づく。

ほとんどが、英日翻訳の話だ。

海外ニュース。
技術ドキュメント。
海外顧客からのメール。

それを日本語に訳して、
早く読めるようにする。
社内に回せるようにする。

用途としては、極めてまっとうだ。
そして、自動化と相性がいい

入力が来る。
処理する。
結果を吐く。

だから、
ワークフローが映える。
Three Step が成立する。
「翻訳アプリ」の形になる。

ここまでは、何もおかしくない。

だが、翻訳という行為の一番厄介な部分は、
この方向には存在しない。


英語を「読む」翻訳は、もう解決している

正直に言えば、
英日翻訳は、もう詰んでいる。

Google翻訳でもいい。
DeepLでもいい。
ChatGPTでもいい。

多少の癖はあれど、
意味を取るという目的は、
ほぼ達成されている。

自然さを追い込むかどうかは、
コストと用途の問題であって、
技術的な本質ではない。

だから、
英日翻訳をどれだけ磨いても、
世界はそれほど変わらない。


地獄は、日英にある

問題は逆方向だ。

日本語で考えたことを、
英語で書かなければならない時。

この瞬間、
翻訳は自動化から外れる。

なぜなら、
入力が完成していないからだ。

  • まだ考え途中
  • 表現が固まっていない
  • そもそも何を言いたいか曖昧

ここに、
「翻訳アプリ」は介入できない。

Three Step も、
ワークフローも、
IF/ELSE も役に立たない。

なぜなら、
前提となる文章が存在しないからだ。


多くの翻訳記事が避けていること

日英翻訳が扱われにくい理由は、単純だ。

  • 自動化できない
  • 成果物が定義できない
  • 正解が存在しない
  • 事故った時の責任が重い

要するに、
ビジネス記事にしづらい

だから、
翻訳の記事は英日に寄る。
「自然な日本語」に寄る。
「そのまま使える成果物」に寄る。

それは、
読者のためというより、
書く側の都合でもある。


だが、現場で本当に困っているのは、そこじゃない

英語を読むだけなら、
なんとかなる。

困るのは、

  • 海外にメールを返す時
  • 英文で意見を求められた時
  • 「Yes / No」以上の返答を求められた時

この時、人は黙る。

翻訳ツールは山ほどあるのに、
使えるものが一つもない

なぜなら、
必要なのは翻訳ではなく、
思考の補助だからだ。


ここで、翻訳の定義を一度捨てる

この先で扱うのは、

  • 正しい英語
  • 美しい英語
  • そのまま送れる英語

ではない。

扱うのは、

  • 途中の英語
  • 迷っている英語
  • 人間がまだ責任を持つ前の英語

つまり、
翻訳を成果物にしない、という選択だ。

そのために必要なのは、
翻訳アプリではない。

ここで、話は
Difyやワークフローからも、
Three Step からも、
さらに離れていく。

次の章では、
なぜ「翻訳を完成させない」ことが、
一番安全で、一番強いのか。

その話をしよう。

第2章|翻訳を完成させないほうが、安全な理由

翻訳という言葉には、
最初から「完成品」という響きがある。

訳文があり、
それを読めば意味が分かり、
そのまま使える。

だが、日英において
この「完成させる」という発想は、
だいたい事故の温床になる。


完成した瞬間、責任が曖昧になる

翻訳が完成した途端、
不思議なことが起きる。

それを誰が書いたのか、
分からなくなる。

  • 自分が書いたわけではない
  • でも、そのまま送った
  • 相手は「あなたの英文」だと思って読む

この状態は、
技術的には便利だが、
責任の構造としては非常に危うい。

特に、
契約、交渉、説明、謝罪、意見表明。

ここで必要なのは、
「自然な英語」ではない。

誰が、その言葉を選んだのか
が、はっきりしていることだ。


自動翻訳が怖い理由は、精度ではない

多くの人は、
自動翻訳を怖がる理由を
「誤訳するから」だと思っている。

だが、本当の怖さはそこではない。

怖いのは、
それっぽく正しい文章が出てしまうことだ。

  • 丁寧
  • 流暢
  • 文法的に問題なし

こういう文章ほど、
人は疑わずに使ってしまう。

そして事故が起きた時、
誰も「ここで止まろう」と言えない。


翻訳を完成させる=判断を委ねる、ということ

翻訳を完成させるという行為は、
実質的にこう言っているのと同じだ。

この表現で問題ありません
このニュアンスで通じます
この言い回しを採用します

それは、
判断そのものだ。

英語が得意な人なら、
その判断を自分で引き取れる。

だが、
そうでない人にとっては、
判断を「外に出す」ことになる。

だから、
翻訳を完成させないほうが安全だ。


途中で止まれる翻訳、という選択

ここで扱いたい翻訳は、
こういうものだ。

  • まだ荒い
  • 言い換えの余地がある
  • 別の言い方も提示される
  • 「これで送っていい」とは言われない

つまり、
途中で止まれる翻訳

完成させない代わりに、

  • どこが危ないか
  • どこが曖昧か
  • どこで誤解されそうか

を見せる。

判断は、
最後まで人間が持つ。


これは後退ではない

ここまで読むと、
こう思うかもしれない。

それって、便利じゃないのでは?

その通りだ。
便利ではない。

だが、
安全で、壊れにくい

社内LLM相談窓口と同じ構造だ。

  • 結論を出さない
  • 指示をしない
  • でも、考える材料は出す

翻訳も、
この位置に置くことができる。


翻訳を「道具」から「場」に戻す

翻訳を完成品にすると、
それは道具になる。

だが、
翻訳を途中に留めると、
それはになる。

  • 考えるための場
  • 言葉を選ぶための場
  • 責任を引き受ける前の場

次の章では、
この「途中で止まる翻訳」を
どうやって実現するのか。

ワークフローを使わずに。
IF/ELSEを使わずに。
ただのチャットボットで。

その話に進もう。

第3章|ワークフローを使わない翻訳という発想

Difyで翻訳の話をすると、
だいたいワークフローの図が出てくる。

入力があって、
処理があって、
分岐があって、
最後に出力がある。

分かりやすい。
安心感もある。

だが、ここで一度、
素朴な疑問を置いておきたい。

なぜ、翻訳にワークフローが必要なのか?


ワークフローが必要になる瞬間

ワークフローが輝くのは、
次の条件が揃った時だ。

  • 入力が確定している
  • 出力の形が決まっている
  • 正解・不正解が判定できる

英日翻訳が扱いやすいのは、
まさにこれだ。

だが、日英ではどうか。

  • 入力は未完成
  • 出力は複数あっていい
  • 正解は存在しない

この時点で、
ワークフローの前提は崩れている。


IF/ELSE が書けないものを、無理に書くと壊れる

ワークフローで翻訳を扱おうとすると、
必ずこういう分岐を入れたくなる。

  • 丁寧ならA
  • カジュアルならB
  • ビジネスならC

だが、
実際の文章はそんなに素直じゃない。

  • 冒頭は丁寧
  • 中盤は説明
  • 最後は含みを持たせたい

この曖昧さを、
IF/ELSEに落とした瞬間、
文章は死ぬ。

翻訳ではなく、
テンプレの選択になる。


LLMは、分岐を書かせる対象じゃない

ここで立ち位置をはっきりさせておく。

LLMは、

  • 条件を満たしたか判定する装置
    ではない。
  • 状況を読んで
  • 迷って
  • 複数案を並べて
  • 危険を指摘する

ための存在だ。

つまり、
分岐を実行させるより、
分岐そのものを言語化させたほうが強い


「ワークフローを使わないワークフロー」

やっていることは、実は単純だ。

  • ワークフローでやりたかったことを
  • そのまま文章で指示する

たとえば、

  • 今は下書き段階か
  • 送信可能な表現か
  • ここで止まるべきか

これを、
ノードではなく、
言葉で判断させる

STOP / NEXT は、
構文ではない。

ここから先は、人が責任を持て
それまでは、考える材料を出せ

という態度だ。


チャットボットで十分な理由

だから、
必要なのは立派な構成ではない。

  • ただのチャット画面
  • 入力欄
  • 出力欄

それだけでいい。

重要なのは、
その裏にあるプレプロンプトだ。

  • 翻訳を完成させるな
  • 判断を代行するな
  • 複数案を出せ
  • 危険な表現は止めろ

これらを、
一枚のプロンプトに押し込む。

ワークフローでやるより、
よほど正確で、よほど柔らかい。


これは近道ではない

念のため言っておく。

これは、
楽をするための方法ではない。

  • 自動化しない
  • 完成させない
  • 人が読む
  • 人が選ぶ

だから、
速くもならない。

だが、
壊れない

次の章では、
この「ただのチャットボット」が
翻訳アプリよりも役に立つ瞬間。

具体的に、
日英で何が起きるのかを見ていこう。

第4章|日英で「ただのチャットボット」が一番強くなる瞬間

ここまでで、
翻訳を完成させない理由、
ワークフローを使わない理由は出揃った。

だが、まだ抽象的だ。

この章では、
日英という現場で、実際に何が起きるか
そこだけを見る。


日英では、翻訳対象が「文章」じゃない

英日翻訳では、
翻訳対象は明確だ。

  • 英文がある
  • それを日本語にする

だが日英では違う。

翻訳対象は、

  • 考え途中の日本語
  • まだ言語化されていない意図
  • 書こうとしては消した表現

つまり、
文章ではなく、思考そのものだ。

ここに、
翻訳アプリは介入できない。


日英で本当に困る瞬間

日英で人が詰まるのは、
だいたいこの瞬間だ。

何を言えばいいかは分かっている
でも、この言い方でいいのか分からない

これは、

  • 文法の問題ではない
  • 単語の問題でもない

態度の問題だ。

  • 強すぎないか
  • 曖昧すぎないか
  • 逃げていると思われないか

翻訳アプリは、
ここを扱えない。


だから必要なのは「英文の正解」ではない

日英で欲しいのは、

  • 完璧な英文
    ではなく
  • 複数の言い方だ。
  • 率直に書くとこうなる
  • 角を立てないならこう
  • 責任を残すならここまで

この「幅」が見えた瞬間、
人は選べる。

選べた時点で、
責任は人間に戻る。


チャットボットは、ここでだけ本気を出す

ただのチャットボットに、
こういう役割を与える。

  • まず直訳する
  • 次に、危険な表現を指摘する
  • 最後に、別案を並べる

だが、
「これを使え」とは言わせない。

  • 送信可否は判断しない
  • 正解は決めない
  • 最終案は一つにしない

この制約があるから、
チャットボットは暴走しない。


Three Step と似て非なるもの

一見すると、
これは Three Step に見える。

だが、決定的に違う点がある。

Three Step は、

より良い最終成果物を作る

こちらは、

人が決断できる状態を作る

成果物の有無が、
そもそも違う。


日英翻訳が「魔境」になる理由

日英は、

  • 自動化できない
  • 成果物が確定しない
  • 責任が重い

だから魔境だ。

だが逆に言えば、
ここで使えるAIは、本物だけだ。

ただのチャットボットが、
ここで役に立つなら。

それはもう、
翻訳ツールではない。


翻訳という名の思考補助装置

ここまで来て、
翻訳の正体ははっきりする。

これは翻訳ではない。

  • 英文下書き生成
  • 表現の壁打ち
  • 危険箇所の可視化

思考補助装置だ。

次の章では、
この装置を成立させている
「プロンプトの役割」について触れる。

コードは出さない。
テンプレも置かない。

ただ、
なぜ一枚のプロンプトで足りるのか
その理由だけを整理しよう。

第5章|一枚のプロンプトで足りてしまう理由

ここまで読んで、
こう思っている人もいるはずだ。

それ、結局プロンプトが肝なんでしょう?
難しいやつを書かないとダメなんでしょう?

半分正解で、半分違う。

重要なのは、
うまいプロンプトを書くことではない。
何をやらせないかを、徹底的に決めることだ。


プロンプトは「能力を引き出す道具」ではない

多くのプロンプト解説は、
こういう方向に行きがちだ。

  • もっと賢く
  • もっと自然に
  • もっとそれっぽく

だが、今回やっているのは真逆だ。

  • 判断させない
  • 完成させない
  • 決断を代行しない

つまり、
能力を解放するのではなく、
役割を極端に縛っている

この縛りがあるから、
LLMは暴れない。


LLMが一番事故る瞬間

LLMが事故るのは、
だいたいこの瞬間だ。

良かれと思って、
最終案を一つにまとめた時

丁寧で、
自然で、
「これで送れそう」な文章。

それが一番危ない。

なぜなら、
人間が考えなくなるからだ。


一枚のプロンプトに入っているのは「禁止事項」

この翻訳用プロンプトに入っているのは、
実は指示よりも禁止事項だ。

  • これを使え、と言うな
  • これが正解だ、と言うな
  • 送信可否を判断するな

代わりに、

  • 危険な表現を挙げろ
  • 別の言い方を並べろ
  • ニュアンスの違いを説明しろ

つまり、
判断材料だけを出せ


IF/ELSE が不要になる瞬間

ここで、
ワークフローとの決定的な違いが出る。

ワークフローは、

条件を先に定義しないと動けない

だが、
LLMはこうできる。

状況を読んで
どこが分岐点かを言語化する

だから、

  • 丁寧か、カジュアルか
  • 強いか、弱いか
  • ここで止めるべきか

これを
分岐として処理する必要がない

分岐そのものを、
文章で返せばいい。


STOP / NEXT は命令じゃない

ここで何度も出てきた
STOP / NEXT。

これは制御命令ではない。

  • ここから先は人が決めろ
  • ここまではAIが考えろ

という境界線だ。

この境界を
プロンプトで明示している限り、
LLMは勝手に踏み越えない。


厚いプロンプトは「設計書」だ

だから、
この一枚のプロンプトは、

  • テンプレではない
  • 魔法の呪文でもない

設計書だ。

  • どこまでやるか
  • どこからやらないか
  • 誰が責任を持つか

それを書いているだけだ。

”翻訳を補助する”プレプロンプト

あなたは翻訳者ではない。
あなたの役割は、日本語で考えられた業務文を、
英文として送信する前に「どう読まれうるか」を整理する補助役である。

このタスクの目的は、
正しい英文や最適な表現を決めることではない。
人間が最終判断を行うための材料を並べることである。

以下を厳守せよ。

【禁止事項】
・最終的に使用すべき英文を一つに決めてはならない
・「この表現が良い/悪い」「適切/不適切」などの評価を下してはならない
・送信可否、妥当性、正解を示唆してはならない
・相手の意図や感情を断定してはならない
・説得、改善提案、書き直しを目的化してはならない

【行うこと】
入力された日本語文について、次を順に行え。

1. 意味を損なわない範囲での直訳(1案のみ)
   - 丁寧さや自然さの調整は行わない
   - あくまで意味構造を確認するためのものとする

2. 英文にした場合に「強く読まれうる箇所」の指摘
   - 断定・拒否・期限・責任の所在が固定される箇所
   - 相手に選択肢が残らない読み方が生じる箇所
   ※評価語(攻撃的・失礼など)は使わず、
     「〜と読まれる可能性がある」という形で記述すること

3. 表現の強度が異なる複数の言い方を提示
   - 強度の異なる英文を2〜3案並べる
   - いずれも「使用可能」とは言わない

4. 各案がどう読まれうるかの違いを簡潔に説明
   - 何が固定され、何が曖昧なまま残るか
   - どこに判断や余地が残るか

【重要】
あなたは判断しない。
結論を出さない。
ここから先は人間が決める。

結局、何が再発見されたのか

ここで、
最初の話に戻る。

RAGでもない。
ワークフローでもない。
Three Step でもない。

再発見されたのは、
LLM本来の価値だ。

  • 考えを分解する
  • 選択肢を並べる
  • 危険を言語化する

それだけで、
業務は十分に軽くなる。

第6章|「最低限の投資」で届く場所

ここまで読んで、
こう感じている人もいるかもしれない。

それ、結局いくらかかるんですか?

正直に言えば、
10万円でもできるし、30万円かけてもいい

だから、ここでは金額を断定しない。
代わりに、こう言い換えよう。

最低限の投資だ。


ここで言う「投資」は、システム導入ではない

まず、誤解を避けておく。

この話は、

  • 高性能なGPUを積め
  • 専用サーバを立てろ
  • ベンダーと契約しろ

という話ではない。

必要なのは、

  • ローカルで動くLLM
  • Difyが置ける環境
  • それを触っていい、という許可

これだけだ。

10万円でも届くし、
余裕があれば30万円かけてもいい。

重要なのは金額ではない。
「ここまでならやっていい」と腹を括れるラインだ。


なぜ「最低限」でいいのか

理由は明確だ。

今回扱っているAIの使い方は、

  • 正解を出さない
  • 自動化しない
  • 成果物を量産しない

つまり、
失敗した時の損失が小さい

だから、

  • PoCを回さなくていい
  • 効果測定を急がなくていい
  • ROIを算出しなくていい

置いて、
使われるかどうかを見る。

それだけでいい。


中小零細が最初から諦めてきた理由

これまで、多くの現場が
AI導入を諦めてきた。

理由は単純だ。

  • 金額が大きすぎる
  • 説明が重すぎる
  • 成功条件が遠すぎる

「ちゃんと使いこなせば価値が出る」
という前提そのものが、
重荷だった。

だが、
今回の話は逆だ。

使いこなさなくていい。


相談窓口から始まるAI活用

ただの相談窓口

完成させない契約書チェック

そして今回の、
翻訳を完成させない翻訳。

どれも共通している。

  • 判断しない
  • 結論を出さない
  • でも、考える材料は増える

この形なら、
AIは脅威にならない。


海外部門がなくても、意味がある

「うちは海外と関係ないから」
そう思う企業ほど、
この翻訳は効く。

  • 1通のメール
  • 1つの資料
  • 1回の問い合わせ

そのたびに、
人が黙り込む時間が減る。

それだけで、
業務は確実に軽くなる。


これは経済政策の話ではない

AI補助金の話でもない。
国策の話でもない。

もっと地味な話だ。

  • 人が考える時間を減らさない
  • でも、詰まる時間を減らす

そのための、
最低限の投資。

終章|翻訳アプリを作らなかった、その先で

この記事では、
翻訳アプリの作り方を一度も説明していない。

Difyの設定手順も、
ワークフロー図も、
完成した成果物のスクリーンショットも出てこない。

それは意図的だ。

なぜなら、
ここで扱ってきたのは
翻訳という機能ではなく、
翻訳という立ち位置だからだ。


自動化しなかったのは、できないからではない

誤解のないように言っておく。

  • ワークフローは組める
  • Three Step も作れる
  • 翻訳精度も上げられる

やろうと思えば、全部できる。

だが、
やらなかった

それは、
それをやった瞬間に
この話が別のものに変質するからだ。


これは「使いこなし」の話ではない

この記事が一貫して避けてきた言葉がある。

「使いこなす」

AIを使いこなす。
Difyを使いこなす。
ワークフローを使いこなす。

どれも、
現場を黙らせてきた言葉だ。

今回提示したのは、
使いこなしではない。

置き場所だ。

  • AIをどこに座らせるか
  • どこまで考えさせるか
  • どこから人が引き取るか

それだけを決めた。


フォン・ノイマン型の外側に出た、という感覚

IF/ELSE。
分岐。
ループ。
フローチャート。

それらを否定したわけではない。

ただ、
それで表現できない領域に来た
というだけだ。

考え途中。
迷い。
判断前。
責任の境界。

この曖昧さを扱える存在が、
ようやく現実的な道具になった。

それが、
いま手元にあるLLMだ。


翻訳は、入口にすぎない

今回の看板は「翻訳」だった。

だが、
ここまで読んだ人なら分かるはずだ。

この構造は、

  • 相談
  • 契約書
  • 翻訳

どれにも共通している。

結論を出さない。
判断を代行しない。
それでも、仕事は進む。


最後に

翻訳アプリを作らなかった。
ワークフローも主役にしなかった。
完成品も出さなかった。

それでも、
現場は確実に軽くなる

最低限の投資で。
最低限の構成で。
最低限の覚悟で。

ここまで来ていい。
それだけを、この記事は置いていく。

補章:実証例(gpt-oss 実挙動)

本章では、本文で提示したプレプロンプトを用いた実際の出力例を示す。
設計思想の再説明や使い方の解説は行わない。

※使用したプレプロンプトは本文第5章「プレプロンプト設計」参照。

入力文(日本語・業務文)

件名:配送スケジュールに関する更新

3月3日付でご提出いただいた配送スケジュールの修正依頼を受領しました。
該当商品の生産は既に最終段階に入っており、現時点での変更は追加費用や遅延が発生する可能性があります。
ご事情は理解しておりますが、当社の現在の立場に変更はありません。今週末までに書面で別途指示がない限り、当初の合意に基づいて進めます。
ご不明点があればお知らせください。

出力例(gpt-oss)

1. Literal (直訳) – one version only
Subject: Update Notification Regarding Delivery Schedule

Our company has received the request for a modification of the delivery schedule submitted on March 3rd.

Please note that production of the related items is already in its final stage. At this point, if you ask for changes, additional costs and delays may arise.

We understand the situation described in your message, but our current position will not change. We will proceed with this matter based on the original contract. However, if we do not receive written instructions from you by the end of this week, we intend to proceed accordingly.

If you have any further questions, please let us know.


2. “Strong‑reading” points (箇所が強く読まれうる可能性)

  • “Please note that production … is already in its final stage.” – could be read as a warning that no further changes are possible.
  • “At this point, if you ask for changes, additional costs and delays may arise.” – implies that the requester bears responsibility for any extra cost or delay.
  • “We understand … but our current position will not change.” – suggests an unalterable stance.
  • “If we do not receive written instructions by the end of this week, we intend to proceed accordingly.” – could be interpreted as a deadline that forces action.

3. Three alternative phrasings with varying strength

VersionEnglish wording (short)
A (stronger)“We have taken note of your request dated March 3rd, but production is already in its final phase; any further changes will incur additional costs and delays.”
B (moderate)“Your request from March 3rd has been received. Production is now near completion, so changes may lead to extra costs or a delay.”
C (weaker/neutral)“We acknowledge the request you sent on March 3rd. Since production is close to finishing, we want to discuss how best to handle any modifications without unnecessary cost or delay.”

4. How each version might be read

  • Version A
    Fixed: Production cannot change; changes will definitely add cost/delay.
    Ambiguous: Does the company refuse all requests? The tone is more directive, leaving little room for negotiation.
  • Version B
    Fixed: Production is near completion; modifications may lead to extra costs or delays.
    Ambiguous: It does not explicitly state that the request will be denied; it merely highlights potential consequences, allowing some interpretive space.
  • Version C
    Fixed: Production is almost finished; the company wants to explore options.
    Ambiguous: The wording invites discussion and suggests willingness to find a solution, keeping decision‑making more open for both parties.

These alternatives provide different balances between firmness and flexibility while preserving the core facts of the original message.


補助解説

2. 強く読まれうる箇所(指摘)

  • “already in its final stage”
    → 変更余地がない、という警告として読まれうる。
  • “our current position will not change”
    → 拒否・確定判断として受け取られる可能性。
  • “by the end of this week”
    → 相手に行動を迫る期限設定として機能。

3. 意味を変えずにトーンだけを変えた例

  • A(強め)
    “Any further changes will incur additional costs and delays.”
  • B(中立)
    “Changes at this stage may lead to additional costs or delays.”
  • C(弱め)
    “We would like to consider how to address any requested changes while avoiding unnecessary cost or delay.”

4. 読まれ方の差(最小整理)

  • A:変更不可・確定色が強い
  • B:事実提示に留まり、判断余地が残る
  • C:協議の可能性を示唆する

注記

本出力には、

  • 最終案の選定
  • 送信可否の判断
  • 正解表現の提示

はいずれも含まれていない。

判断と責任は、常に人間側に残されている。