銀行口座やクレジットカード情報が漏れるよりも、
「AIとの会話が覗かれるほうが怖い」
そんな論調が、なぜか目立つようになった。

第1章:便利さの代償は、いつも見えない場所にある
ブラウザ拡張機能は、現代のWeb体験を快適にする裏方だ。
広告ブロック、翻訳、VPN、パスワード管理、AI補助──
どれも「入れた瞬間から便利になる」。
だが、その手軽さと引き換えに、
ユーザーは拡張機能に“ブラウザの内部”を丸ごと渡している。
閲覧ページ、入力フォーム、通信内容。
拡張機能は、Webサービスよりも深い位置に入り込める存在だ。
それでも多くの人は、
「Chrome Web Storeにあるから大丈夫」
「無料で便利だから」
という理由だけで、安易にインストールしてしまう。
第2章:本当に“価値があるデータ”は何か
ここで一度、冷静に考えてみたい。
データビジネスの世界で、
本当に高値で取引される情報は何か?
答えは昔から変わらない。
- 銀行・決済情報
- 購買履歴
- 認証情報(Cookie、セッション)
- 位置情報と行動履歴
これらは
・即金性があり
・本人確認が容易で
・詐欺や広告に直結する
極めて“使いやすいデータ”だ。
一方、AIとの会話ログはどうか。
- ノイズが多い
- 冗談や虚構も混じる
- 本人特定が難しい
- 文脈依存で再利用しにくい
冷酷な市場原理で見れば、
主役になりにくいデータである。
第3章:それでも“AI会話”だけが怖がられる理由
それなのに、今回のような話題では
「AIとの会話が盗まれた」
という点だけが、強く強調される。
なぜか。
理由は単純だ。
そのほうが“物語になる”からだ。
銀行情報の漏洩は、ただの犯罪。
だがAI会話は、
- 思考
- 悩み
- 人格
- 内面
と結びつけて語ることができる。
つまり
プライバシー侵害を、思想や人格の問題に昇華できる。
これは恐怖を煽るには、あまりに都合がいい。
第4章:「AIは危険だ」という分かりやすい敵
もう一段、構造を引き剥がそう。
「拡張機能の権限設計が危うい」
「無料ツールのビジネスモデルが問題だ」
──こうした話は、正しいが地味だ。
その代わりに
“AIがあなたの心を覗いている”
という構図を作れば、一気に分かりやすくなる。
ここでAIは、
本来の当事者ではなく
叩きやすい象徴として消費される。
これは新しい話ではない。
- インターネットは危険
- クラウドは信用できない
- スマホは監視装置
技術が社会に入り込むたび、
同じ構図が繰り返されてきた。
第5章:本当に警戒すべき“現実”
この話の本質は、AIではない。
警戒すべきなのは、
「何にアクセスできる拡張機能を入れているかを
理解しないまま使っていること」だ。
拡張機能は、
- 入れた瞬間から
- 常時動作し
- 更新で挙動が変わり
- ユーザーが気づかない
という性質を持つ。
便利さの裏で、
ブラウザという“最前線”を預けている。
AI会話が怖いかどうか以前に、
その前段が見落とされすぎている。
第6章:違和感を持てるかどうかが分かれ目
「銀行情報よりAI会話のほうが怖い」
もしこの言葉に、
少しでも違和感を覚えたなら、
それは健全な感覚だ。
恐れるべき対象を、
誰かがすり替えていないか。
問題の本質が、
“AIそのもの”に押し付けられていないか。
拡張機能を一つ入れる前に、
その問いを挟むだけでいい。
技術は、敵でも味方でもない。
使い方と語られ方が、すべてを決める。

