数か月前、私はUbuntu 26についての記事を書いた。
その中で取り上げたのは、新しいデスクトップ環境でも、新機能でもない。
GPU、NPU、そしてNextcloud。
一見すると無関係に見えるこれらが、「ローカルで計算し、ローカルでデータを持つ」という一つの方向へ収束し始めていることを書いた。
その時点では、まだ一つの流れに過ぎなかった。
しかし、この数か月で、その流れはさらに明確な形を取り始めている。
その名前が、Euro-Officeである。

名前だけを見ると、「欧州製Officeソフト」が誕生したように聞こえる。
しかし、本質はそこではない。
Euro-Officeが目指しているのは、Microsoft 365の代替となるワープロや表計算ソフトを作ることではない。
Officeという、企業活動の中心そのものを、自分たちの手に取り戻そうという試みである。
ファイルをどこに保存するか。
誰と共有するか。
チャットはどこを通るのか。
AIは誰のサーバーで動くのか。
共同編集の履歴は誰が管理するのか。
これまで当たり前のように米国クラウドへ預けていた「仕事の中心」を、欧州自身の基盤で構築しようとしている。
その中核の一つに位置付けられているのが、Nextcloudだ。
興味深いのは、Nextcloud自身の立ち位置も変わってきたことである。
以前は「DropboxやGoogle Driveの代替」という紹介が多かった。
もちろん、その用途でも十分優秀だ。
しかし現在のNextcloudは、その説明だけでは実態を表せなくなっている。
Talkによるコミュニケーション。
Officeとの共同編集。
AIアシスタント。
ワークフロー。
各種業務アプリとの連携。
Nextcloudは、ファイルサーバーではなく、業務プラットフォームとして育ち始めている。
最近、Google DriveからNextcloudへ移行したという体験記事を読んだ。
個人ユーザーとしては、非常に自然な感想だったと思う。
しかし、その記事を読みながら少しだけ違和感も覚えた。
今のNextcloudを語るなら、話の中心はファイル同期ではない。
欧州が目指しているのは、Google Driveの置き換えではなく、Microsoft 365という仕事の基盤そのものだからだ。
数か月前の記事で、私は「第三のクラウド」という言葉を使った。
中央集権型クラウドでもなく、完全なローカルでもない。
自分で持ちながら、必要なところだけ外部と接続する新しい形である。
当時はまだ、その方向性を示す技術が揃い始めた段階だった。
しかし今、その思想の上にOfficeまで積み上がろうとしている。
これは単なる新製品の話ではない。
欧州は、「どこで仕事をするか」だけではなく、「誰の基盤の上で仕事をするか」を選び始めたのである。
Ubuntu 26の記事を書いたとき、私は「デジタル主権」が次の時代のキーワードになると感じた。
その予感は、どうやら間違っていなかったようだ。
今度は、その主権がOfficeにまで届こうとしている。
※関連記事

Ubuntu 26で起きた変化は、単なるOSアップデートではなかった。
GPU、NPU、Nextcloudという一見無関係な技術が、「ローカルに計算資源とデータを持つ」という一つの思想へ収束し始めたことを解説している。
今回のEuro-Office構想は、その流れがさらに一歩先へ進んだものとして読むと、より理解しやすいだろう。



