AIが原発を変える──SMR量産化で「電力不足」という壁が消える日

AIが原発を変える──SMR量産化で「電力不足」という壁が消える日 TECH
※画像は想像イメージです。実際のBWRX-300の設備・製造工程とは異なります。

AIの競争と聞けば、まず思い浮かぶのはGPUだろう。

NVIDIAの最新GPUを何台確保できるのか。巨大なモデルを学習させるために、どれほど大規模なクラスタを構築できるのか。これまでAIインフラの競争は、ほとんど半導体の調達競争として語られてきた。

しかし、その景色が変わり始めている。

GPUを並べることができても、それを動かす電気がなければ意味がない。

そしてAIデータセンターが要求し始めた電力は、もはや「大きな工場」程度の話ではなくなっている。

  1. 英国が欲しいのは、最低6GWのAIデータセンター
  2. BWRX-300とは何者なのか──「新技術を増やさない」という革新
    1. BWRとは?
    2. ポンプを動かさなくても、水が勝手に流れる
    3. 「電気がなくなったらどうするのか」
    4. 7日間、電源も人間も必要としない
    5. パッシブ安全とは?
    6. 新技術を使わないことが、新しい
  3. SMRの革命は「小さいこと」ではない
    1. 原発を「注文住宅」から「工業製品」へ
    2. SMRとは?
    3. その実験が、すでにカナダで始まった
    4. 1号機は高くていい
    5. FOAKからNOAKへ
    6. そしてDarlingtonだけで終わらせない
    7. 原発のコストが「どこかでドバッと下がる」可能性
  4. 日本には、すでにSMRを置く場所がある
    1. 日本政府は「リプレース」へ舵を切った
    2. 原発サイトには、原子炉以外の巨大な資産がある
    3. そして日本のロードマップには、すでにBWRX-300がいる
    4. 福島第一を経験した国だからこそ
    5. 「夢の原子炉」を追わないという選択
    6. 再生可能エネルギーか、原発かではなくなってきた
  5. それでも、SMRは魔法の電源ではない
    1. 原発は、GPUのようには増産できない
    2. そして、まだ安くない
    3. 規制まで標準化できるのか
    4. 核燃料も無限に湧いてくるわけではない
    5. 放射性廃棄物の問題も消えない
    6. それでも、これまでとは何かが違う
    7. 2030年ではなく、2040年を見る
  6. AIが原発を変える
    1. 原発がAIを救う、だけではない
    2. 300MWを「小さい」と言う顧客
    3. AIがSMRの最初の巨大市場になる可能性
    4. そして日本にも、この波はやってくる
    5. 再生可能エネルギーか、原発かという時代の終わり
    6. ソフトウェア革命の先にあったもの

英国が欲しいのは、最低6GWのAIデータセンター

英国政府が2026年4月に更新した「UK Compute Roadmap」には、なかなか強烈な数字が並んでいる。

UK Compute Roadmap

英国政府は、2030年までに少なくとも6GWのAI対応データセンター容量が必要になると予測している。

現在の約3倍だ。

その受け皿として整備を進めるのが「AI Growth Zones(AI成長ゾーン)」である。

単なるデータセンター誘致地域ではない。

政府が土地、電力、計画承認、インフラ整備などを支援し、巨大なAI計算拠点を意図的に作ろうという国家プロジェクトだ。

しかも規模がおかしい。

英国政府は各AI Growth Zoneについて、2030年までに最低500MWの需要を処理できることを目標とし、少なくとも1カ所については1GWを超える規模まで拡張する方針を示している。

1GW。

もはやデータセンターという言葉から想像する建物ではない。

大型発電所一基分に近い電力を、一つのAI拠点が要求する世界である。

英国政府自身も、この規模のインフラには土地だけでなく、電力へのアクセスと送電網の増強が必要であり、完成まで何年もかかることを認めている。

そこで英国が考え始めた解決策が面白い。

送電網から大量の電力を持ってくるだけではなく、

発電設備そのものをAI拠点へ持ってくればいい。

という発想である。

ロードマップでは、再生可能エネルギー、蓄電池、マイクログリッド、オンサイト発電などと並び、「advanced nuclear(先進原子力)」がAI向け電力インフラの選択肢として明記された。

さらに一歩踏み込み、

SMRを組み込んだAI Growth Zoneを検討する。

とまで書かれている。

SMRとはSmall Modular Reactor、小型モジュール炉のことだ。

つまり英国政府は本気で、

AIデータセンターと原子炉をセットで作る

未来を検討し始めている。

冗談のような話だが、考えてみれば合理的でもある。

500MW、1GWという巨大な新規需要が発生するたびに、発電所から送電線を引き、変電設備を増強し、既存の電力網へ無理やり押し込む。

それが難しいのであれば、需要地の近くで発電すればいい。

19世紀の産業は炭鉱の近くに工場を作った。

20世紀には巨大発電所から送電網を通じて都市や工場へ電力を運んだ。

そして21世紀、AIは再び、

「大量のエネルギーを消費する場所の近くで、大量のエネルギーを作る」

という極めて物理的な世界へ戻ろうとしている。

ソフトウェアの最先端を走っていたはずのAIが、最後には土地と水と送電線と発電所の問題に突き当たったわけだ。

だが、ここで一つ疑問が生まれる。

SMRと言えば、これまで何度も「次世代の原発」として紹介されてきた技術である。

小型だから建設しやすい。

工場生産できる。

安全性が高い。

量産すれば安くなる。

そんな説明は以前からあった。

しかし原子力業界には、「夢の原子炉」という言葉に苦い記憶も少なくない。

日本ならなおさらだ。

高速増殖炉「もんじゅ」は、ナトリウム冷却という高度な技術を採用しながら、1995年に二次冷却系でナトリウム漏えい事故を起こした。その後も長期間にわたり本格運転へ戻ることができず、最終的には廃炉が決まった。

福島第一原子力発電所事故では、巨大津波によって電源を失い、原子炉を冷却し続けることの難しさを日本社会全体が目の当たりにした。

「新しい原子炉なら安全です」

そう言われたところで、日本人が簡単に納得するはずもない。

ところが、今回SMRについて改めて調べてみると、少し様子が違っていた。

研究室の中で未来を語っている段階ではない。

カナダではすでに建設許可が下り、実際の原子炉建設へ進んでいるSMRがある。

しかも、その原子炉は奇抜な新技術の塊ではなかった。

水を使う。

沸騰させる。

蒸気でタービンを回す。

何十年も世界中で使われてきたBWR、沸騰水型原子炉の延長線上にある。

新しい原理を持ち込むのではなく、長年蓄積してきた技術から不要なものを削り、安全設備を単純化し、同じ設計を何度も作れるようにする。

いわば、

「枯れた技術の集大成」

としてSMRを作ろうとしている。

その原子炉の名前が、

BWRX-300。

GE Vernova Hitachi Nuclear Energyが開発する、約300MW級の小型モジュール炉である。

BWRX-300:日立GEベルノバニュークリアエナジー株式会社
BWRX-300は、日立GEベルノバニュークリアエナジー(旧社名:日立GEニュークリア・エナジー)と米国の姉妹会社であるGEベルノバ日立ニュークリアエナジーが開発する小型軽水炉です。高い安全性と経済性を両立し、建設資材削減や工期短縮の実現が…

そしてBWRX-300を調べていくと、SMRの本当の意味は「原発を小さくすること」だけではないことが見えてくる。

もしかするとSMRが変えようとしているのは、

原子炉そのものより、原発の作り方なのかもしれない。

BWRX-300とは何者なのか──「新技術を増やさない」という革新

BWRX-300という名前を見ると、いかにも新世代の原子炉という印象を受ける。

しかし、その中身を調べていくと面白い。

BWRX-300の強みは、未知の技術を大量に投入したことではない。

むしろ逆だ。

できるだけ新しいものを使わない。

燃料も既存品。

冷却材も水。

原子炉の方式も、世界中で何十年もの運転実績があるBWR(Boiling Water Reactor:沸騰水型原子炉)。

そして安全設計についても、米国原子力規制委員会(NRC)が2014年に設計認証したESBWR(Economic Simplified Boiling Water Reactor)の技術を継承している。

GE Vernova HitachiはBWRX-300を、1950年代から続くGEのBWRにおける「第10世代」と位置づけている。

名前に入っている「X」も、ローマ数字の10を意味する。

つまりこれは、突然現れた未来の原子炉ではない。

70年近く改良を続けてきたBWRの最新版なのである。

BWRとは?

BWRは「Boiling Water Reactor」、日本語では沸騰水型原子炉と呼ばれる。

原子炉の中にある水を核分裂の熱で沸騰させ、発生した蒸気をそのままタービンへ送り、発電機を回す。

同じ軽水炉でも、加圧した一次冷却水から蒸気発生器を介して別系統の水を沸騰させるPWR(加圧水型原子炉)とは構造が異なる。

日本でも長年使われてきた方式であり、福島第一原子力発電所もBWRだった。

だからこそ、

「福島と同じBWRなら危ないのではないか」

という疑問も当然出てくる。

しかしBWRX-300を見るうえで重要なのは、同じBWRという基本原理を使いながら、その構造が大幅に簡素化されていることである。

ポンプを動かさなくても、水が勝手に流れる

BWRX-300の特徴を一つだけ挙げろと言われれば、筆者ならこれを選ぶ。

自然循環である。

水を鍋で温めれば、温められた水は密度が小さくなって上昇する。

上で冷えた水は密度が大きくなり、下へ降りてくる。

特別な機械がなくても対流は起きる。

BWRX-300は、この単純な物理現象を原子炉の冷却に積極的に利用する。

従来のBWRでは、炉心へ大量の水を循環させるためにポンプを使ってきた。

ところがBWRX-300では、通常運転時から自然循環によって炉心を冷却する。

原子炉上部には高さを持たせた領域が設けられ、温度と密度の違いによって水が循環し続けるよう設計されている。

要するに、

熱い水は上へ行く。
冷たい水は下へ行く。

その性質そのものを冷却装置として使う。

あまりに原始的で、拍子抜けするほどである。

だが、ここに大きな意味がある。

ポンプを一つなくせば、なくなるのはポンプだけではない。

モーターがいらない。

そのための電源がいらない。

制御装置が減る。

配管が減る。

弁が減る。

非常時にそのポンプを動かすためのバックアップ電源も減らせる。

さらに、そのバックアップが故障した場合に備える「バックアップのバックアップ」まで減らせる。

原子力発電所では、安全のために追加された設備がさらに別の安全設備を必要とし、システム全体が巨大化していく。

BWRX-300は逆方向へ進んだ。

安全装置を増やすのではなく、そもそも安全装置を必要とする故障原因を減らす。

この思想が面白い。

「電気がなくなったらどうするのか」

そして日本人にとって、この設計には特別な意味がある。

2011年3月11日。

東日本大震災によって福島第一原子力発電所は外部電源を失った。

非常用ディーゼル発電機が起動したものの、その後襲来した巨大津波によって多くの非常用電源設備も機能を失った。

原子炉は停止した。

しかし、核分裂反応を止めても燃料から熱が突然消えるわけではない。

放射性物質の崩壊によって「崩壊熱」が発生し続ける。

だから原子炉を停止した後も、炉心を冷却し続けなければならない。

ところが、

電源がない。

冷却設備を動かしたくても動かせない。

これが福島第一事故を深刻化させた大きな要因だった。

以来、日本人の原子力発電に対する恐怖の中には、

「電気が全部なくなったら、また冷やせなくなるのではないか」

という極めて具体的な記憶が残っている。

BWRX-300の設計は、この問いに真正面から答えようとしている。

7日間、電源も人間も必要としない

BWRX-300には、自然循環を利用するIsolation Condenser System(隔離時復水器)が備えられる。

異常時には原子炉から発生した蒸気を熱交換器へ送り、そこで冷却して水へ戻す。

その水は重力によって原子炉へ戻る。

ここでも、

蒸気は上へ行く。
冷えれば水になる。
水は重力で下へ落ちる。

という物理法則を利用する。

GE Vernova Hitachiによれば、BWRX-300は全交流電源を失うStation Blackoutが発生しても、

電源も運転員の操作もなしに、7日間安全な状態を維持できる

よう設計されている。

7日を超えても、隔離時復水器のプールへ水を補給すれば冷却を継続できる。

もちろん、これは「絶対に事故が起こらない」という意味ではない。

原子力設備である以上、地震、津波、火災、設備故障、人的要因など、さまざまな事象を想定した安全評価が必要になる。

日本へ導入するなら、日本固有の厳しい耐震・津波評価も当然必要だ。

それでも、

「電源が失われたら、ポンプをどうやって動かすのか」

という問いに、

「その時間帯については、そもそもポンプを必要としない」

と答えられる意味は大きい。

これは単なる技術スペックではない。

福島第一事故を経験した日本では、原子力発電に対する心理的なハードルそのものに関わる設計思想である。

パッシブ安全とは?

このように、モーターやポンプ、外部電源、人間の操作などに極力依存せず、重力、自然対流、圧力差、蒸発や凝縮といった物理現象によって安全状態を維持する考え方を「パッシブ安全」と呼ぶ。

機械を高度に制御することで安全にするのではなく、

「何もしなくても危険な方向へ進みにくい」

ように設計する。

BWRX-300の重要な思想の一つである。

新技術を使わないことが、新しい

これは「もんじゅ」と対照的である。

高速増殖炉もんじゅは、液体ナトリウムを冷却材として使用した。

ナトリウムは高速炉の冷却材として優れた特性を持つ一方、水や空気と激しく反応するという扱いの難しい物質でもある。

1995年に起きた事故も核暴走や炉心溶融ではなく、二次冷却系から漏れたナトリウムによる火災だった。

技術的には全く異なる原子炉なので、もんじゅとBWRX-300を単純比較することはできない。

しかし社会が受け取る印象は別だ。

もんじゅには、

「高度な新技術を積み上げて、未来の原子炉を作る」

という時代の思想があった。

対してBWRX-300から感じるのは、ほとんど逆の思想である。

水を使う。

既存のBWR用燃料を使う。

既存のBWRサプライチェーンを使う。

米国で設計認証されたESBWRの安全技術を利用する。

そしてポンプや配管や安全系を、可能な限り減らす。

GE Vernova Hitachiによれば、BWRX-300で使用するGNF2燃料はすでに商用供給され、世界で約170万本の燃料棒供給実績を持つ。

つまり燃料すら新規開発しない。

未知の技術を足すのではなく、実績のある技術を組み合わせ、不要なものを引いていく。

その結果として生まれた新型炉なのである。

これは、かなり強い。

最先端技術という言葉には、普通「今までできなかったことを可能にする」という意味が含まれる。

BWRX-300の場合は少し違う。

今まで必要だと思っていたものを、どこまでなくせるのか。

その方向で進化している。

だから「枯れた技術の集大成」という表現が妙にしっくりくる。

そして、この簡素化にはもう一つ重要な目的がある。

安全性だけではない。

安く、速く、何度でも同じものを作るためである。

SMRという技術の本当の勝負は、ここから始まる。

SMRの革命は「小さいこと」ではない

SMRという名前から、多くの人は「小さな原発」を想像するだろう。

それは間違いではない。

国際原子力機関(IAEA)は一般に、1モジュールあたり300MW以下の原子炉をSMRに分類している。

大型原子炉が1基で1000MWを超えることを考えれば、BWRX-300は確かに小さい。

しかし、SMRの本質を単なる小型化と考えると、その狙いを見誤る。

小さくするだけなら、むしろ経済的には不利になる可能性すらある。

原子炉には、出力が小さくなっても必要になる設備がある。

制御室も必要だ。

セキュリティも必要だ。

規制対応も必要だ。

運転員も必要になる。

1000MWの原子炉を1基作る代わりに300MWの原子炉を3基作れば、自動的に安くなるわけではない。

むしろ従来の常識では、

原発は大きく作った方が、発電量あたりのコストを下げやすい。

だから世界の原子力発電所は大型化してきた。

では、なぜ今になって小さくするのか。

答えは「量産」にある。

原発を「注文住宅」から「工業製品」へ

従来の大型原発には、一品物の巨大建築物という側面が強かった。

建設する土地が違う。

地盤が違う。

冷却条件が違う。

電力網が違う。

規制当局が違う。

そして長い建設期間の間に、規制や設計変更まで発生する。

結果として、

同じ原子炉を作っているはずなのに、毎回違う巨大プロジェクトになる。

これでは量産効果が働きにくい。

自動車なら、最初の1台を作るためには莫大な開発費がかかる。

しかし同じ設計の車を10万台作れば、開発費は10万台に分散できる。

工員は作業に慣れる。

治具も使い回せる。

部品メーカーも専用ラインを作れる。

不良の原因も分かる。

組み立て順序も改善される。

製品を作るたびに、次の製品が少し安く、少し速く作れるようになる。

これが製造業では当たり前に起きている「学習曲線」である。

ところが原発では、この効果を十分に得る前に設計が変わってしまう。

SMRが狙っているのは、ここを変えることだ。

設計を固定する。

部品を標準化する。

可能な部分を工場で製造する。

同じ型式を繰り返し建設する。

原発を完全な大量生産品にすることは難しい。

それでも、

巨大建設プロジェクトから、可能な限り製造業へ近づける。

これがSMRの本当の野心である。

SMRとは?

SMRはSmall Modular Reactor、小型モジュール炉の略称である。

特定の原子炉方式を指す言葉ではない。

BWRX-300のような軽水炉もあれば、高温ガス炉、溶融塩を利用する炉、高速炉など、異なる方式のSMRが開発されている。

重要なのは「Small」だけではない。

Modular。

可能な限り標準化した設備を工場で製造し、現地で組み立て、同じ設計を複数の発電所へ展開する。

SMRという名前の本質は、むしろこちらにある。

その実験が、すでにカナダで始まった

この理想論が本当に成立するのか。

それを試す最も重要なプロジェクトの一つが、カナダ・オンタリオ州のDarlington New Nuclear Projectである。

Ontario Power Generation(OPG)は、Darlington原子力発電所の敷地にBWRX-300を4基建設する計画を進めている。

合計出力は約1.2GW。

2025年4月、カナダ原子力安全委員会(CNSC)は1号機の建設許可を発給した。

そして2026年3月には、原子炉建屋基礎工事へ進むための最初の規制上のホールドポイントも解除された。

つまりBWRX-300は、

「将来建設する予定のSMR」ではない。

西側諸国で、実際に商用規模の建設プロセスへ入ったSMRである。

予定では最初のBWRX-300が2030年末までに運転を開始する。

ここからが重要だ。

Darlingtonには1基だけ作るわけではない。

4基作る。

1号機は高くていい

新型原子炉の1号機が高価になること自体は、不思議ではない。

初号機はFOAK(First Of A Kind)と呼ばれる。

設計を完成させる。

規制当局と審査する。

製造方法を確立する。

施工方法を決める。

専用設備を用意する。

作業員を訓練する。

サプライチェーンを構築する。

初めてやることだらけだ。

当然、高い。

DarlingtonのBWRX-300計画全体の予算は、4基で約208.9億カナダドルとされている。

決して安い買い物ではない。

特に最初の1基と4基共通で使用するインフラには大きな費用がかかる。

ここだけを見れば、

「SMRって全然安くないじゃないか」

という批判も成立する。

そして、その批判は正しい。

少なくとも現時点で、

SMRなら安い

とは言えない。

だがSMRという構想が本当に成功したかどうかを判断する数字は、1号機の価格ではない。

2号機はいくらになるのか。

3号機は何年で作れるのか。

ここである。

FOAKからNOAKへ

同じ設計を繰り返し建設していけば、やがて「初めて作る原子炉」ではなくなる。

これをNOAK(Nth Of A Kind)と呼ぶ。

何基目かの、すでに作り慣れた原子炉である。

1号機で、

「この部品はどう作る?」

と議論していたものが、

10号機なら、

「前回と同じ部品を発注してくれ」

になる。

1号機で、

「この順番で施工できるだろうか」

と検討していた工程が、

10号機なら、

「前回と同じチームで、前回と同じ順番で施工する」

になる。

設計変更も減る。

工期の予測精度も上がる。

部品メーカーも需要量を予測できる。

専用設備への投資もできる。

ここまで来て初めて、

「SMRを量産すれば安くなる」

という仮説を検証できる。

Darlingtonの4基は、その最初の実験なのである。

そしてDarlingtonだけで終わらせない

BWRX-300が興味深いのは、最初からカナダ専用原子炉として設計されていないことである。

米国ではTennessee Valley Authority(TVA)が、テネシー州Clinch RiverでBWRX-300の導入を進めている。

TVAは2025年5月、米国原子力規制委員会(NRC)へ建設許可を申請した。

さらにポーランドをはじめ、複数の国でBWRX-300の導入計画や検討が進められている。

ここで非常に重要な試みが行われている。

OPG、TVA、GE Vernova Hitachiなどが協力し、

Standard Plant Design

を共有しようとしているのである。

カナダで作った原発を、アメリカでは一から設計し直す。

その次はポーランド用にまた設計する。

それでは量産にならない。

できるだけ同じ設計。

できるだけ同じ部品。

できるだけ同じ施工方法。

そして可能なら、規制当局へ提出する技術情報まで共通化する。

これが成功すれば、

Darlington 1号機

Darlington 2号機

Darlington 3号機

Darlington 4号機

Clinch River

ポーランド

次の国

という巨大な学習曲線が成立する。

これは原発という産業では、極めて大きな意味を持つ。

原発のコストが「どこかでドバッと下がる」可能性

もちろん、量産すれば必ず安くなるとは限らない。

原子炉は自動車ではない。

建設地ごとの地盤条件も違う。

規制制度も違う。

冷却設備も送電設備も必要だ。

国ごとに異なる安全要求が大量に追加されれば、せっかくの標準設計が再び一品物へ戻ってしまう可能性もある。

そして原子力産業には過去にも、

「次の原発から安くなる」

という約束を何度も守れなかった歴史がある。

だからBWRX-300についても、現段階で成功したと評価するのは早い。

しかし、今回は一つ大きな違いがある。

突然、原子炉を大量に欲しがる顧客が現れた。

AIである。

AIデータセンターが必要とする電力は数MWではない。

100MW。

300MW。

500MW。

そして1GW。

しかも太陽が出ている時間だけでは困る。

風が吹いている時間だけでも困る。

数万、数十万個のGPUを24時間動かしたい。

ここで、

300MWを24時間供給するBWRX-300

という製品のサイズが、恐ろしいほど綺麗に噛み合ってくる。

500MW級AI Growth Zoneなら2基。

1GW級なら4基。

もちろん実際の電力システムはこんな単純な足し算ではない。

原子炉には定期検査もあり、バックアップ電源や送電網との接続も必要になる。

それでも、

「300MW単位で安定電源を増設できる」

という能力は、AI時代になる前とは価値が違う。

そしてMicrosoft、Google、Amazon、Metaのような企業にとって、300MWは大きすぎる電源ではなくなった。

むしろ、

「300MWしかないなら、何基必要だ?」

という世界へ入り始めている。

SMRが長年抱えてきた問題は、

量産すれば安くなる。しかし量産するほど誰が買うのか。

という鶏と卵だった。

そこへAIが現れた。

大量の電力が欲しい。

24時間欲しい。

できれば需要地の近くで欲しい。

そして世界各地で同じような需要が発生する。

もしAIデータセンターの建設ラッシュが、SMRの最初の10基、20基、50基を支える需要になれば何が起きるのか。

SMRの学習曲線が動き始める。

原子炉の価格が下がる。

建設期間が短くなる。

さらに導入しやすくなる。

するとAIデータセンターの電力確保も容易になる。

つまり、

AIがSMRを育て、SMRがAIを育てる。

そんな循環が成立する可能性が出てきたのである。

AIの電力不足は、これまでAI産業の成長を止める壁として語られてきた。

しかし、その巨大な電力需要そのものが新しい原子力産業を立ち上げる需要になるのであれば、話は逆転する。

AIの電力不足が、電力不足を解決する技術の量産を促す。

英国政府がAI Growth ZoneへSMRを組み込む可能性を検討し始めたことは、その未来が単なる思考実験ではなくなりつつあることを示している。

日本には、すでにSMRを置く場所がある

ここまで英国、カナダ、米国の話を見てきた。

では、日本はどうなのか。

福島第一原子力発電所事故を経験した日本で、SMRによる原子力発電の再拡大など現実味がない。

そう思うかもしれない。

ところが日本のエネルギー政策を調べてみると、状況はすでに変わり始めている。

2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画では、安全確保を大前提としながら、原子力を再生可能エネルギーとともに最大限活用していく方向が明確に示された。

背景にあるのは、脱炭素だけではない。

データセンター。

半導体工場。

電化による新しい電力需要。

これまで人口減少と省エネによって減少すると考えられてきた日本の電力需要が、再び増加する可能性が出てきた。

そして第7次エネルギー基本計画には、興味深い一文がある。

原子力発電について、

「データセンターや半導体工場などの新たな需要にも対応できる」

安定電源として評価しているのである。

英国だけではない。

日本政府もすでに、AI時代の電力需要と原子力を同じ政策の中で見始めている。

日本政府は「リプレース」へ舵を切った

さらに重要なのが、原発の建て替えである。

日本では長い間、

既存原発を再稼働するのか。

という議論が原子力政策の中心だった。

しかし時間は止まってくれない。

既存原発は老朽化する。

いくら再稼働を進めても、いずれ廃炉になる。

2026年6月、経済産業省は将来の原子力発電能力について、2040年代には2.2~5.5GW、2050年代には12.7~16GW不足する可能性を示している。

大型原発なら、2050年代には11~14基分に相当する。

つまり、

今ある原発を動かすだけでは、いずれ足りなくなる。

そこで第7次エネルギー基本計画では、廃炉を決定した原発を持つ事業者の既存サイトを利用し、次世代革新炉への建て替えを具体化する方針が示された。

これは大きな政策転換である。

新しい原発を建てるうえで最も難しい問題の一つは、

「どこに建てるのか」

だからだ。

原発サイトには、原子炉以外の巨大な資産がある

原子力発電所を作るには、原子炉だけあればいいわけではない。

巨大な発電設備を設置できる土地が必要になる。

大量の冷却水を確保できる場所が必要になる。

変電設備が必要になる。

そして数百MWから1GWを送れる送電線が必要になる。

さらに、

原子力設備を扱える技術者。

保守体制。

防災計画。

周辺自治体との長年の関係。

原子力発電所を中心として形成された地域産業。

これらは金を出したからといって、明日作れるものではない。

ところが廃炉になった原発サイトには、その多くがすでに存在する。

これは巨大な資産である。

もちろん古い原子炉を撤去した場所へBWRX-300をそのまま置けば完成、というほど簡単ではない。

地盤、耐震性、津波、冷却設備、送電容量、使用済み燃料、廃炉工程など、サイトごとの評価が必要になる。

それでも、

原発を一から作れる場所を探す

ことと、

すでに原発が存在する場所を次世代炉へ更新する

ことでは、問題の種類がまるで違う。

日本政府が「新設」ではなく「リプレース」を前面に出している理由もここにある。

そして日本のロードマップには、すでにBWRX-300がいる

さらに興味深い。

2026年に資源エネルギー庁がまとめた「次世代革新炉の開発ロードマップ」には、SMRの候補として、

BWRX-300

が明記されている(出典:経済産業省『次世代革新炉開発ロードマップ』)。

次世代革新炉開発ロードマップ(METI/経済産業省)
次世代革新炉開発ロードマップ

開発企業として、

米国のGE Vernova Hitachi Nuclear Energy。

そして日本の日立GEベルノバニュークリアエナジー。

名前まで載っている。

つまり、

「いつか海外で成功したSMRを日本にも持ってくればいい」

という段階ではない。

日本政府の次世代原子炉ロードマップの中に、すでにBWRX-300が入っているのである。

もっとも、日本でそのまま建設できるわけではない。

日本には地震がある。

津波がある。

カナダのDarlingtonとは自然条件がまるで違う。

資源エネルギー庁自身も、BWRX-300について、

日本特有の地震・津波などの自然条件への適合性を検討し、必要であれば設計変更や要素技術開発を行う

としている。

さらにSMR特有の新技術に対応した規制基準の整備も必要になる。

ここは楽観できない。

日本でBWRX-300が動くとしても、明日の話ではない。

しかし少なくとも、

日本でSMRを使うという話そのものが、政府の検討段階へ入っている。

これは大きい。

福島第一を経験した国だからこそ

そして日本でBWRX-300を考えるとき、避けて通れないのが福島第一原子力発電所事故である。

原発事故から15年以上が経過しても、

「津波で電源が失われ、冷却できなくなった」

という記憶は強い。

だからBWRX-300のパッシブ安全という思想は、日本では単なる技術的なメリット以上の意味を持つ。

全交流電源が失われても、自然循環によって崩壊熱を除去する。

運転員が即座に何かをしなければ事故へ進むのではなく、まず物理法則そのものに安全側へ働いてもらう。

もちろん、

「福島第一と違うから安全だ」

などという単純な話ではない。

福島第一事故から得られた教訓は、設計上想定していなかった事象が起こり得るということでもある。

だからこそ地震、津波、浸水、火災、複合災害まで含めた評価が必要になる。

それでも、

電源を失ったらどうするのか。

という日本社会が身をもって経験した問いに対して、

電源がなくても一定期間冷却を続けられる設計にする。

という回答を持つ意味は小さくない。

これは性能表に書かれた安全係数とは違う。

原子力発電に対する社会の心理的なハードルそのものを下げる可能性がある。

「夢の原子炉」を追わないという選択

ここで再び、もんじゅを思い出す。

高速増殖炉には大きな夢があった。

ウラン資源を極めて効率的に利用できる。

エネルギー資源に乏しい日本にとって、核燃料を増殖しながら利用できる技術は魅力的だった。

だから日本は巨額の資金と長い時間を投入した。

しかし、そのためには軽水炉とは異なる高度な技術が必要になった。

冷却材には液体ナトリウムを使用する。

ナトリウムは高速炉に適した優れた冷却材である一方、空気中で燃焼し、水とは激しく反応する。

1995年の事故では二次冷却系からナトリウムが漏れ、火災が発生した。

原子炉そのものの暴走ではなかった。

それでも社会に残った印象は強烈だった。

「そこまで難しいものを使わなければ、原発は作れないのか。」

BWRX-300の思想は、対照的に見える。

水。

軽水炉。

BWR。

既存燃料。

既存の原子力サプライチェーン。

長年蓄積された運転経験。

そして自然対流と重力。

未来の原子炉を作るために未知の技術を積み上げるのではない。

すでに人類が知っている技術を徹底的に整理し、不要な複雑性を削る。

それは派手ではない。

「夢の原子炉」と呼ばれるような技術でもない。

しかし福島第一ともんじゅを経験した日本にとっては、

「枯れた技術の集大成」

であることそのものが、むしろ大きな安心材料になるのかもしれない。

再生可能エネルギーか、原発かではなくなってきた

これは日本だけで起きている変化でもない。

欧州では長く、脱炭素政策の中心として太陽光や風力などの再生可能エネルギーが急速に拡大してきた。

それ自体は今後も重要である。

しかしAIデータセンターという新しい需要が、一つの問題を突きつけた。

大量の電力を、

24時間、365日

必要とする。

しかも500MW、1GWという規模である。

再生可能エネルギーだけでそれを供給しようとすれば、発電設備だけでなく、蓄電設備、送電網、需給調整など巨大なシステムが必要になる。

だから英国はAI Growth Zoneの電源として、再生可能エネルギーだけでなく原子力まで同じ選択肢の中に並べ始めた。

フランスのEDFもSMR「NUWARD」の開発を続けている。

興味深いことにNUWARDも、2024年に設計戦略を見直した。

そして新しい方向として選んだのが、

「実証済みの技術だけを使う」

という方針だった。

最大400MW級。

モジュール化。

プレハブ化。

既存原子力技術の活用。

そして用途として、データセンターへの電力供給まで明記されている。

BWRX-300と炉型は異なる。

しかし思想は驚くほど似ている。

複雑な未来技術を競うのではない。

既存技術を標準化し、簡素化し、繰り返し作れる原発にする。

原子力産業そのものが、少しずつ同じ答えへ収束し始めているようにも見える。

AIが求めているのは、夢のエネルギーではない。

今後10年、20年にわたって、確実に大量供給できる電力である。

そしてその巨大な需要が、長く停滞していた原子力産業へ再び投資を呼び込み始めている。

これは「原発がAIを救う」という一方向の話ではない。

AIの存在によって、

原発の側も変わり始めている。

それでも、SMRは魔法の電源ではない

ここまで見てくると、SMRがAIの電力問題を一気に解決してしまうようにも思えてくる。

300MWの原子炉を標準化する。

工場で部品を作る。

同じ設計を何度も建設する。

AIデータセンターの近くに配置する。

必要なら2基、3基、4基と増設する。

送電網へ巨大な新規負荷を追加する代わりに、需要地の近くで電力を作る。

実に美しい。

しかし、残念ながら話はそこまで簡単ではない。

少なくとも、

「2030年までに急増するAIの電力需要をSMRが解決する」

と考えるのは無理がある。

原発は、GPUのようには増産できない

カナダDarlingtonで建設が進むBWRX-300の1号機ですら、運転開始予定は2030年末である。

英国のRolls-Royce SMRも2030年代の運転開始を目指している。

米国の各SMRプロジェクトも、多くは2030年前後から2030年代を見据えている。

一方、AIデータセンターの電力需要は今増えている。

英国政府は2030年までに少なくとも6GWのAI対応データセンター容量が必要になると予測している。

時間軸が合わない。

AIモデルは半年で世代交代する。

GPUは数年で更新される。

データセンターなら数年で建設できる。

しかし原子力発電所は、どれほど標準化しても、規制審査から建設、試験、運転認可まで長い時間が必要になる。

AIはソフトウェアの時間で動き、原発はインフラの時間で動く。

この差は消えない。

だから2030年までのAI電力需要については、既存の送電網、天然ガス、再生可能エネルギー、蓄電設備、既存原発の延命、地熱など、利用可能な電源を組み合わせるしかない。

英国政府自身も、AI Growth Zoneの電力をSMR一本に賭けているわけではない。

再生可能エネルギー。

蓄電池。

マイクログリッド。

送電網の革新。

そして先進原子力。

複数の選択肢を並べている。

SMRは、その中でも2030年代以降を担う可能性のあるカードなのである。

そして、まだ安くない

もう一つ忘れてはいけない。

SMRは現時点では安価な電源ではない。

DarlingtonのBWRX-300計画は4基、合計約1.2GWで約208.9億カナダドル。

初号機だけでも巨額の投資になる。

「小型原子炉だから安い」というイメージとは、かなり違う。

SMRが本当に安くなるためには、

同じものを何度も作る

という前提が必要になる。

これはまだ証明されていない。

Darlington 2号機。

3号機。

4号機。

そして米国のClinch River。

さらにその次。

ここで本当に工期と建設費が下がるのか。

これから世界が実物を使って検証することになる。

もし10基作っても価格がほとんど下がらなければ、

「SMRは量産すれば安くなる」

という最大の前提そのものが崩れる。

逆に、2号機、3号機、10号機と建設するにつれてコストが明確に低下するなら、原子力産業の景色は一変する。

SMRの未来を決めるのは、華々しい新技術ではない。

10基目の見積書である。

規制まで標準化できるのか

もう一つ大きな壁がある。

原子炉の設計を世界共通にしても、規制制度は国ごとに違う。

カナダで認可された原子炉を、そのまま米国へ持っていって運転できるわけではない。

まして日本には、地震と津波がある。

日本向けBWRX-300では、その条件に合わせた安全評価や設計変更が必要になる可能性が高い。

問題は、どこまで変更するかだ。

国ごとに、

「ここを変えてください」

「この設備を追加してください」

「この安全系を二重化してください」

「この建屋を変更してください」

と要求され続ければ、せっかくの標準設計が崩れていく。

気がつけば、

カナダ仕様BWRX-300。
米国仕様BWRX-300。
ポーランド仕様BWRX-300。
日本仕様BWRX-300。

という別々の原発になりかねない。

そうなれば量産効果は小さくなる。

SMRが本当に工業製品になれるかどうかは、原子炉メーカーだけでは決められない。

規制制度まで、どこまで標準化できるのか。

ここも重要な勝負になる。

核燃料も無限に湧いてくるわけではない

そして原発を大量に増やすなら、当然燃料が必要になる。

この点ではBWRX-300に一つ大きな利点がある。

一部の先進炉で必要になるHALEUのような特殊な高濃縮燃料ではなく、既存の軽水炉で使われている低濃縮ウラン燃料のサプライチェーンを利用できる。

ここでも、

「枯れた技術を使う」

というBWRX-300の思想が効いてくる。

しかしSMRが世界中で数十基、数百基と建設されれば、ウラン採掘だけでなく、転換、濃縮、燃料加工まで含めた供給能力を増強しなければならない。

原子炉だけ量産しても、燃料工場が追いつかなければ動かせない。

AIがGPU不足を経験したように、

次は濃縮能力不足

という別のボトルネックが現れる可能性もある。

インフラとはそういうものだ。

一つの制約を外すと、次の制約が見えてくる。

放射性廃棄物の問題も消えない

そしてSMRになったからといって、使用済み核燃料がなくなるわけでもない。

最終処分。

中間貯蔵。

廃炉。

核セキュリティ。

核不拡散。

原子力発電が何十年も抱えてきた問題は、そのまま残る。

小さくしただけで、これらが魔法のように消えることはない。

日本では特に、高レベル放射性廃棄物の最終処分地という長年の問題がある。

SMRを本格導入するのであれば、

「電気が足りないから原発を増やそう」

だけでは済まない。

燃料の入口から廃棄物の出口まで、原子力政策全体を再び設計する必要がある。

それでも、これまでとは何かが違う

ここまで並べると、

「結局SMRも難しいではないか」

という話になる。

その通りである。

SMRは魔法ではない。

2030年の電力不足を明日解決してくれるわけでもない。

まだ高い。

規制もある。

燃料も必要。

廃棄物も出る。

建設には何年もかかる。

それでも筆者がSMRの動きを面白いと思うのは、

問題の種類が変わっている

からだ。

かつての次世代原子炉には、

「そもそもこの技術は実用になるのか」

という問題があった。

新しい冷却材。

新しい燃料。

新しい炉型。

新しい材料。

技術そのものを成立させるところから始めなければならなかった。

BWRX-300は違う。

水で冷やす。

既存の軽水炉燃料を使う。

BWRという長年使われてきた方式を使う。

パッシブ安全についても、先行するESBWRで長年の設計・規制審査の蓄積がある。

今問われているのは、

作れるのか

ではなく、

安く、速く、何度も作れるのか

へ移りつつある。

これは似ているようで、まったく違う問題である。

技術的可能性を証明する研究開発から、

産業として成立するかを検証する量産試験

へステージが変わった。

そしてカナダでは、その試験がすでに始まっている。

2030年ではなく、2040年を見る

だからSMRとAIの関係を見るなら、2030年だけを見てはいけない。

2030年までにAI電力問題が深刻化する。

その需要に対応するため、送電網を増強する。

再生可能エネルギーを増やす。

蓄電設備を作る。

既存原発を延命する。

ガス火力も使う。

その横でBWRX-300やRolls-Royce SMRなどの初号機が動き始める。

そして2030年代。

2号機。

3号機。

10号機。

20号機。

もしそこで学習曲線が本当に働けば、初めて状況が変わる。

500MWの新しいAI拠点を作るたび、

「送電網に500MWの余裕がありますか」

と尋ねるだけではなく、

「300MW級SMRを何基配置しますか」

という選択肢が生まれる。

既存Gridを不要にするわけではない。

しかし新しい巨大需要を、すべて既存Gridで受け止める必要もなくなる。

これは電力インフラの設計思想そのものを変える可能性がある。

AIの電力問題は、2020年代には解決しないかもしれない。

しかしAIが生み出した巨大な電力需要がSMRの量産を成立させるなら、

2030年代には、問題の前提そのものが変わっている可能性がある。

閉塞しているように見えたAIの電力問題に、ようやく別の出口が見え始めたのである。

AIが原発を変える

AIの電力問題を調べていたはずだった。

英国政府がAI Growth Zoneを整備する。

2030年までに最低6GWのAI対応データセンター容量が必要になる。

500MW級の拠点を作る。

少なくとも一つは1GWを超える。

それほどの電力を、どうやって供給するのか。

そこで英国政府が示した選択肢の一つがSMRだった。

送電網から大量の電力を運ぶだけではない。

必要なら、発電設備そのものを需要地へ近づける。

その程度の話だと思っていた。

ところがSMRを調べていくと、もっと大きな変化が見えてきた。

原発がAIを救う、だけではない

これまでAIと原子力の関係は、

AIが大量の電力を必要とする

原発なら大量の電力を安定供給できる

だからAIデータセンターに原発を使う

という話として語られることが多かった。

もちろん、それは間違っていない。

しかし今回見てきた動きは、もう少し複雑である。

原子力産業にも問題があった。

巨大な初期投資。

長すぎる建設期間。

プロジェクトごとに異なる設計。

巨大化する安全設備。

規制対応。

そして何より、

同じものを大量に作れない。

原発は70年以上にわたって商用利用されてきた成熟技術でありながら、自動車や半導体のような量産産業にはなれなかった。

SMRは、そこを変えようとしている。

原子炉を小さくする。

設計を固定する。

部品を標準化する。

工場で作れる部分を増やす。

安全設備を単純化する。

同じ原子炉を何度も建設する。

つまりSMRが挑戦しているのは、

原発そのものの発明ではなく、原発の生産方式の発明

なのかもしれない。

しかし量産には、量産するだけの需要が必要だった。

そこへAIが現れた。

300MWを「小さい」と言う顧客

BWRX-300の電気出力は約300MW。

一般家庭の感覚なら途方もない電力である。

ところがAIデータセンターの世界では、300MWが妙に小さく見えてしまう。

英国政府が想定するAI Growth Zoneは500MW以上。

最大級では1GWを超える。

500MWならBWRX-300を2基。

1GWなら4基。

もちろん現実の電力システムを単純な割り算で設計することはできない。

それでも、原子炉メーカーにとってこれほど都合のいい顧客は珍しい。

大量の電力が欲しい。

24時間欲しい。

数十年間使う。

世界中で同じ需要が発生する。

そして、

300MWでは足りない。

SMRにとって長年の弱点だった「小ささ」が、AI時代には商品としてちょうどよい単位になり始めている。

AIがSMRの最初の巨大市場になる可能性

ここで、奇妙な循環が生まれる。

AIが成長する。

電力が足りなくなる。

AI企業が安定電源を求める。

SMRへの投資が増える。

原子炉の注文が増える。

同じ設計を繰り返し建設できる。

サプライチェーンが形成される。

作業員が経験を積む。

工期が短くなる。

コストが下がる。

SMRを導入しやすくなる。

すると今度は、

AIデータセンターへ電力を供給しやすくなる。

つまり、

AIがSMRを育てる。

そして、

SMRがAIを育てる。

一見するとAIの成長を阻害するはずだった巨大な電力需要が、電力供給側への巨大投資を呼び込むことで、自らの制約を取り除いていく可能性がある。

これはまだ仮説である。

DarlingtonのBWRX-300はまだ発電していない。

量産効果も証明されていない。

10基目のBWRX-300がいくらになるのか、誰にも分からない。

しかし以前と違うのは、

その仮説を実物で検証する段階まで来た

ということである。

そして日本にも、この波はやってくる

日本にとって、この変化は特に興味深い。

日本は福島第一原子力発電所事故を経験した。

津波によって電源を失い、原子炉を冷却し続けることができなくなった。

その記憶は今も原子力政策に巨大な影を落としている。

さらに高速増殖炉「もんじゅ」では、液体ナトリウムという扱いの難しい冷却材を使用した新技術に挑戦し、長期間にわたる開発の末に廃炉へ至った。

だから、

「次世代の夢の原子炉を作ります」

と言われても、日本社会が警戒するのは当然である。

しかしBWRX-300は、その方向へ進んでいない。

水を使う。

BWRを使う。

既存燃料を使う。

長年蓄積された技術を使う。

そして重力と自然循環を使う。

新しい技術を大量に追加するのではなく、

複雑さを削ることで新しい原子炉を作る。

その思想には、福島第一ともんじゅを経験した日本だからこそ理解できる価値があるように思える。

さらに日本には、廃炉や老朽化が進む原発サイトがある。

土地がある。

送電設備がある。

原子力人材がいる。

BWRを長年扱ってきた産業基盤がある。

そしてBWRX-300を開発するGE Vernova Hitachi Nuclear Energyには、日本の日立もいる。

日本政府の次世代革新炉ロードマップにも、すでにBWRX-300の名前が載った。

これは、遠い国の実験ではない。

再生可能エネルギーか、原発かという時代の終わり

ここでもう一つ、重要な変化がある。

長い間、エネルギー政策は対立として語られてきた。

再生可能エネルギーか、原子力か。

脱原発か、原発推進か。

しかしAIが要求する電力量は、その議論を少しずつ古くしている。

必要なのは思想的に美しい電源構成ではない。

大量の電力を、

安定して、

低炭素で、

現実的な価格で、

必要な場所へ供給することだ。

太陽光が適している場所では太陽光を使う。

風力が適している場所では風力を使う。

蓄電池を組み合わせる。

送電網を増強する。

既存原発を活用する。

そして条件が合えばSMRを置く。

AIという巨大な電力需要は、エネルギー政策を再び、

「実際に何MW供給できるのか」

という極めて現実的な問題へ引き戻している。

英国政府がAI Growth Zoneの電源として、再生可能エネルギーと先進原子力を同じ政策の中で扱い始めたことは象徴的である。

ソフトウェア革命の先にあったもの

AIは奇妙な技術である。

始まりは数学だった。

ニューラルネットワーク。

Transformer。

学習アルゴリズム。

それがGPU競争になった。

半導体工場が必要になった。

巨大なデータセンターが必要になった。

そして今、

発電所が必要になった。

AIという最もソフトウェアらしい技術を追いかけていたはずが、最後には、

土地。
水。
銅。
ウラン。
タービン。
送電線。
コンクリート。

という、とてつもなく物理的な世界へたどり着いた。

しかし、それをAIの限界と考える必要はないのかもしれない。

需要が十分に巨大なら、社会は供給側を作り替える。

鉄道が鉄鋼業を育てた。

自動車が石油産業と道路網を巨大化させた。

インターネットが世界中に光ファイバーとデータセンターを作った。

そしてAIが、

新しい電力インフラを作る需要

になる可能性がある。

SMRが本当にその一部になるのか。

答えが出るのは、まだ先である。

まず見るべきはDarlingtonだ。

BWRX-300の1号機が予定通り完成するのか。

2号機は安くなるのか。

3号機は速く作れるのか。

そして10基目はいくらになるのか。

そこで量産効果が確認されたとき、SMRは「未来の原子炉」ではなくなる。

型番を指定して発注する発電設備になる。

そのときAIの電力問題も、今とはまったく違って見えているかもしれない。

AIが原発によって救われるのではない。

AIという巨大な需要が、原発そのものを変えようとしている。

そして変わった原発が、今度はAIの成長を支える。

そんな循環が、すでに始まりかけている。